アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

鍵の開いた扉からどうぞ中へ【O.E.T@7/20"opening"】

本ブログで何度か取り上げてきたオーケストラ・アンサンブル東京(O.E.T)の結成記念公演がいよいよ明日7月20日に迫った。
https://twitter.com/o_e_tokyo/status/887099634367176705

40人編成のオーケストラが最適なサイズのホールで繰り広げるクラシック音楽不動のセンターのベートーヴェン。これだけでも聴く価値十分。日本には自らが展開するパフォーマンスに適したホールを選べていないアーティストがやまといるから。

楽団代表の水野蒼生はクラシック音楽の受容が拡がらないことへの強い危機感、音楽から社会、文化の歪みを斬る意思からO.E.T結成に向かった。彼の音楽観、文化観、ものごとを見る視点が明らかになっているインタビューと対話はこちら。
http://hoppingnaranja.hatenablog.com/entry/2017/06/25/%E3%80%90%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%80%91%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%92%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3
http://nebulaph.com/dialog/classicalmusic/

日本は学生ならJ-POPのライヴの半額程度で一流指揮者の振る、一流ソリストの出るオーケストラ公演が聴けるのに若い聴衆の腰は重く、会場にいる若者は音大生ばかり。つまりアウトサイダーの若者は取れていない。そうした絶望的内輪感に風穴を開け、一般の音楽好きの選択肢にクラシック音楽を入れてもらうための第一歩になりうるのが今回のO.E.Tの公演。ひとりでも多くの方に彼らの開ける扉の向こうのクラシック音楽の自由で厚みのある世界に足を踏み込んでほしい。

若い哲学者+若い音楽家の対話【O.E.Tの先にあるもの】

哲学者の田代伶奈、ピアニストの三好駿、そして指揮者・O.E.T代表の水野蒼生の鼎談。
http://nebulaph.com/dialog/classicalmusic/
若い音楽家2人がいまクラシック音楽をフレッシュな形で世に問う背景を中心にしながら、それぞれが想う古典を学ぶ意義、古典と現代、残るもの消えるものなどについて語り合う。

抽象論でもわもわ拡がりがちな内容を具体性のある、分かりやすい言葉で語れる3人の若者。実に頼もしい。
水野蒼生が代表を務めるO.E.T
https://orchestra-ensemble.tokyo
7月20日の結成公演"opening"チケットはこちら。
http://pinoko.eplus.jp/eplus/eplus.jp/m/msys/main.jsp;sjid=7FDE2432FB166688E6088A3CE1F2BDF0.B2C01_001;jsessionid=D1CB27CA7E9C51229AA8FAC5BB0FC469.m368?uji.id=main&uji.bean=G.apl.web.bean.JOAG010701Bean&uji.verb=GGMC01_ticket&selectRadioIndex=0&uketsukeInfoKubun=001&siteCode=0175&ZScreenId=GGMC01&showSubListIndex=1&C=2&uid=NULLGWDOCOMO
※文中敬称略

強すぎて嫌いだった千代の富士

7月17日、横綱白鵬は大相撲名古屋場所9日目に通算1045勝目を挙げ、第58代横綱千代の富士に通算勝利数で並んだ。

白鵬千代の富士を敬愛し、2015年に千代の富士が行った還暦土俵入りでは太刀持ちを務めた(露払い日馬富士)。この時「九重親方(当時)は人望がないため誰にも太刀持ち、露払いを引き受けてもらえず、やむなくモンゴルの現役横綱2人に頼んだ」なんて陰口も聞かれたが結果としては堂々たる土俵入りだった。
https://youtu.be/gNXySp2hgUw
https://sportiva.shueisha.co.jp/smart/clm/othersports/other/2015/06/27/post_505/index_3.php
まさか白鵬千代の富士がその後1年あまりで急逝するとは思わなかったろう。逝去の報から暫くして心のこもった追悼文を寄せた。
https://ameblo.jp/hakuho-69/entry-12186691829.html

ときに私は現役時代の千代の富士のことは強すぎて嫌いだった。洗練された綺麗な土俵入り、勝負の速さ、切れ味鋭い寄り、縦に容赦なく叩き付ける投げ…全てが憎たらしく、たまに旭富士大乃国千代の富士に勝つと気分爽快。
逆に引退してからは母と同い年であることや解説の分かりやすい語り口によって親しみがわいた。従って逝去の報に耳を疑ったし、未だに信じられない気持ちでいる。

一方、白鵬に対しては殆ど何の感情もわかない。「ああ、良くやっているねえ」程度。色々言うひとの意見に接しても「まあ、別にいいんじゃない」としか感じない。

「強すぎる。嫌だー」という強烈な気持ちを私に抱かせた千代の富士はやはり大横綱、印象度ナンバーワン力士。それは不動。
※文中敬称略

あの人は今【全英オープンに寄せて】

7月20日-23日に全英オープンゴルフ選手権がイングランドのロイヤル・バークデールゴルフクラブで行われる。
この大会では幾多の名勝負が繰り広げられたが不思議なことに過去の40年で優勝したり、活躍を見せた選手のなかにその後フェイドアウトしてしまったひとが結構いる。

ビル・ロジャース(1951-;1981年優勝)
端正な容姿と美しいスウィングでピンクパンサーと呼ばれて人気を集めたロジャース。日本のトーナメントでも優勝し、ゴルフファンの注目を集めた。1981年の全米オープン2位、そして同年の全英オープン(ロイヤルセントジョージス)で圧倒的な強さを発揮して優勝。トップ選手の座を不動にしたと思われた。
しかし2年後の1983年に1勝して以降、いわゆる燃え付き症候群に陥り、表舞台から姿を消した。テキサスのゴルフクラブのディレクターに転身。その後はコース設計家として活動。シニア入りしてからレジェンズ・オブ・ゴルフ(アンオフィシャル部門)でブルース・リッキーと組んで優勝した。

ボビー・クランペット(1960-)
マチュア時代数々のタイトルを獲得し、鳴り物入りでプロ転向。爽やかな雰囲気のクランペットはすぐ人気者に。1982年全米オープン3位、そして同年の全英オープン、予選ラウンドでロケットスタート。ところが第3ラウンドの後半大失速、何とか第4ラウンドの最終組スタートに踏み止まったが、結局崩れて10位。結局以降はパッとせず、レギュラーツアー通算わずか1勝に終わった。過去の人気を武器に解説者として活動。2000年の全米オープンで地区予選から本選出場、予選も通過して人々を驚かせた。シニアになってからチャンピオンズでツアー復帰を果たしている。

イアン・ベーカー・フィンチ(1960-;1991年優勝)
理想のスウィングの持ち主と言われ、洗練されたショットで全英オープンを制した。が、スウィング改造に失敗、イップスに陥り、ゴルフが崩壊。4年後の1995年のセントアンドリュースでは18ホールの左のOBにティショットを打ち込み、同組のアーノルド・パーマーに慰められた。これを機に事実上引退し、解説者に転身。落ち着いた口調で人気を集めている。

ブライアン・ワッツ(1966-)
日本ツアーで活躍して、1998年の全英オープンに登場。堂々のプレーで優勝に手を掛けたが、プレーオフの末、オメーラに敗れた。その後アメリカを主戦場にするもパッとせず、数年後に背中や膝の故障で姿を消した。いまどうしているのだろう。

ジャン・バン・デ・ベルデ(1966-;1999年「カーヌスティの悲劇」)、デビッド・デュバル(1971-;2001年優勝)はあまりに有名なのであえて省略。

よくオーガスタは魔物が棲むコースだという。確かに挑戦者に牙を剥くコースだ。一方でコースに認められ、マスターズチャンピオンとなった選手のゴルフ人生はおしなべて充実している。
逆に全英オープンは勝ってから、活躍してからに魔物が棲むのかも。

極私的未知との遭遇【神社のお祭りと御巡幸にコミット】

15日から24日まで祖父が宮司を務める神社のお祭りと御巡幸に奉仕するため、福岡県北九州市に滞在する。

私は完全に生まれも育ちも東京・神奈川の人間。今までここは遊びに来るところだった。
今回初めて神職の端くれとしてやってきた。

10日間、どんなことに出会うのだろう。
一応いまは楽しみにしている。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」の棘【O.E.T@7/20"Opening"】

オーケストラ・アンサンブル東京(O.E.T)7月20日に行う結成披露公演のメイン曲目は楽団代表・水野蒼生が指揮するベートーヴェン交響曲第3番

orchestra-ensemble.tokyo

O.E.T @7/20"Opening" (@o_e_tokyo) on Twitter

クラシック音楽史上に輝く革命的作品。言い方を変えればチクッとくるポイントがたくさんある。詳細な分析は音楽学者の書物に譲るとして、一音楽ファンの視線で刺さるところをごく簡単に。

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第1楽章

冒頭。何の前触れもなく2発サウンドが炸裂する。いきなり真剣勝負。

2発の間隔で以降の指揮者のテンポ設定が大体分かる。

間を置かずに2発鳴らせば速いテンポでいくし、少し間を取って鳴らせばゆったりと進む。間を置かずに2発鳴らしたのにまったり行く指揮者やしっかり間を取って鳴らしたのにせかせかやる指揮者はあまりいない。

そこから静々といかにも高貴で伸びやかなメロディが流れ、じわじわと音の成分が積み重なって最初の盛り上がりを迎える。

次にどんどん軋み系の音が使われて響きのエネルギーを強く聴き手に印象付ける(動画5:00-6:45、以下同じ)。当時こうした音を短い間隔でしかもフルスロットルで連射することは殆どなく相当ショッキングだったはず。

楽章の締め括りは最初のメロディの要素が膨らんで堂々たる響きに結実(14:00-15:45)。 

第2楽章(15:55-)

何と葬送行進曲。極めて悲痛で荘厳、しかしどこか希望もある音楽。

ホルンの奏でる旋律がどれも胸にしみる。とりわけ24:42からの部分。

音楽の表現可能性を劇的に広げた約16分間。

第3楽章(32:45-)

一転してウキウキ、ちょっぴりユーモラス。

35:25-と36:00-のホルンの3重奏は聴く側は愉しいが奏者はドキドキ。

ばっちり決まれば終演後のビールがうまいだろう。

第4楽章(38:35-)

ズバッと空間を切り裂く始まり。そこから優美なメロディが流れ出て響きの万華鏡が展開される。46:55以降の音楽の高揚感、温かさとラストの追い込みは身体をゆすりたくなる。やはりホルンが大活躍。

この曲は全編に渡ってホルンの見せ場が多い。音楽の扉が開くかはホルン奏者が鍵を握っている。

最後に。

作曲当時(19世紀初頭)と現在では楽器、特に管楽器の構造が全く違っていた。

当時の楽器(のレプリカ)を使った演奏(ピリオド・アプローチ)。

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北朝鮮は遠すぎる【1勝1敗の安倍首相欧州歴訪】

安倍首相はG20出席と北欧訪問のため、欧州歴訪を行った(九州北部豪雨発生により予定を2日繰り上げて帰国)。
都議選惨敗の余波が残るなか、得意の外政で巻き返えそうと意気込んだはずだが結果は1勝1敗

まず1勝。
EUのトゥスク大統領との会談でEUとのEPAの合意を固めたこと。
やや遅きに失したが規模、内容ともに画期的な合意。
www.jiji.com

日本は今後、産業の技術革新と製品化競争力の向上、農畜産の構造改革を速いテンポで進めれば、この協定を成長に結びつけられる。

次に1敗。
G20首脳宣言で北朝鮮に対する明確なメッセイジを盛り込めなかったこと。多くの国にとって北朝鮮は極東の小国、どこにあるかもよく分からない国であり、脅威と感じていない実態が改めて露呈した形。
www.jiji.com

国連加盟約190ヵ国のうち、約160ヵ国が北朝鮮と国交がある。つまり世界、とりわけ大陸ヨーロッパでは北朝鮮普通の国とみなされている。
日本はこの現実を直視し、北朝鮮との対話にしっかり乗り出す必要がある。アメリカは北朝鮮のミサイル開発をスローダウンさせるため、近いうちに北朝鮮と対話して何らかの合意に達するかもしれない。「圧力、圧力」と言っていたらアメリカに梯子外されていたでは日本としてあまりに情けない。
アメリカ、チャイナとの関係を密にしながら、北朝鮮と対話する道を日本政府はしたたかに考え、一歩踏み出す必要がある。

最後に。安倍首相は九州北部豪雨対応のため、エストニア訪問を取り止めて帰国した。災害対応は重要だがここは国益を踏まえて予定通り訪問してもらいたかった。
なぜならエストニアNATOのサイバー防衛の拠点であり、経済成長も著しいから。