アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

人生模様

園田高弘『ピアニスト その人生』【生涯現役の厳しい道】

演奏家としての矜持、カラヤンやチェリビダッケとの共演、欧州での苦労。日本語で読めるピアニストの自伝の最高峰。日本人の演奏家による著作物の頂点。基になった日本経済新聞「私の履歴書」のためのインタビューをまとめた池田卓夫氏の手腕の賜物。余白の…

メータ指揮、LAPOの「ロマンティック」(Decca)【早く来すぎた全盛期】

ブルックナー(LAPO)が1970年、ワーグナー(WPh)は1966年のセッション録音。パリッと鳴る麗々しい響き。溢れるガッツと品の良さがうまく併存。メータの全盛期はここからの10年ほどだった。#クラシック音楽 #ブルックナー #ロマンティック #交響曲第4番 #19…

石原慎太郎が「群像」で連載小説開始【怨みは消えた?】

石原慎太郎、作家生活60年余にして初めて「群像」誌に執筆!しかも長年書く書くと言ってきた家族小説の連載。奇しくも瀬戸内寂聴の連載も開始。#文芸誌 #雑誌 #群像 #講談社 #石原慎太郎 #石原愼太郎 #湘南夫人 #瀬戸内寂聴 #水に流す #小説 #2018年8月号 #…

石原慎太郎・瀬戸内寂聴『往復随筆 人生への恋文』【密やかな交歓】

涙、夢、不可知なるもの…ひとの行く道に絡む様々な要素を二人の大人が綴り合う。どちらも簡素な骨格で行間の表情が豊か、深い余韻。脱帽。#文春文庫 #読書 #石原慎太郎 #瀬戸内寂聴 #立木義浩 #往復随筆 #随筆 #文士 #2008年 #大人の味 #石原愼太郎 #異種格…

落語と故郷への愛を貫いた努力のひと【桂歌丸さん逝去】

嗄れ声なのに品を感じさせる端正な芸風の持ち主。正直言って長いこと「5代目圓楽とよくネタを交換したひと」という認識で従って高座を聞いたのも2回だけ。晩年圓朝ものに傾倒したが本当は軽いものが合っていたと思う。 5代目圓楽や米朝の色気も談志のカリス…

故人のネタでウソを書く舩越園子女史【ヒューバート・グリーン逝去】

切り返しの速い独特のスウィングで親しまれ、1977年全米オープンと1985年全米プロを制し、2007年に世界ゴルフ殿堂入りしたヒューバート・グリーンが6月19日に逝去。71歳だった。 headlines.yahoo.co.jp グリーンはレギュラー時代に度々来日し、ダンロップフェ…

My Favorite Things:石原慎太郎『私の海の地図』【しっとりした内面の声】

美しい写真と共に綴られる海をテーマとした回想エッセイ。長年外洋帆走協会の会長を務めたひとゆえ勇ましい話もあるが文章の基調は静かな心のつぶやき。日本屈指のブルーウォーター派の魂が宿った1冊。「家庭画報」連載の単行本化。#石原慎太郎 #石原愼太郎 …

山本浩二『野球と広島』(角川新書)【ミスター赤ヘルの独白】

帯だけ見ると便乗本に見えるが出版は優勝前年の2015年。解説同様の穏やかな整ったトーンで野球人生とカープに対する愛情を飾らずに語る。津田恒実さん、木村拓也さんのとの挿話は切ない。「キャッチボールの重要性」「監督したい人間の心理」など個々の項は…

「キヌ」と「サチ」【6/28に衣笠祥雄さんお別れの会】

4月23日に71歳で逝去した衣笠祥雄さんのお別れの会が広島市内のホテルで行われることになった。 www.hochi.co.jp 一般献花には多くのカープファン、衣笠ファンが列に並ぶだろう。 ときに衣笠さんの訃報を受けて多くの球界関係者が思い出を語った。それらを読…

中曾根康弘・元首相100歳【「反権威」で小澤征爾氏との縁も】

View this post on Instagram A post shared by Tadashi Nakagawa (@choku_nakagawa) www.instagram.com 物心ついて名前を知った最初の政治家の一人がいまだ存命というのは不思議な気持ち。堂々たる体躯。陣笠議員時代から大げさに天下国家を語り、外遊に精…

My Favorite Things:中曾根康弘『天地有情』

「自己主張と自己弁護の香りがかなり強烈」(中曾根氏本人による後記より)ながら伊藤隆、佐藤誠三郎の両先生の存在が利き、保守から見た戦後政治が人間の動きの見える形で起伏豊かに語られる。首相時代の日記の参照を許されたのも大きい。末尾の21世紀の日…

My Favorite Things:岩城宏之『楽譜の風景』(岩波新書)

楽譜から見えてくるクラシック音楽の面白さ、指揮の核心、音楽家の人間的断面を洒落た筆致で綴る。1982年~1983年にかけて書かれたもの。岩城さんは病気する前で世界のあちこちでブイブイいわせていた。従って海外ネタが多く挟まれ、有名なメルボルンにおけ…

園田高弘とカラヤンの共演が初CD化【「帝王」が「気さくなお兄さん」だった頃】

本記事の園田高弘とカラヤンの共演がついに聴ける。1999年2月18日、日本経済新聞朝刊「私の履歴書」。http://tower.jp/item/4731252/#カラヤン #nhk交響楽団 #1954年 #園田高弘 #ベートーヴェン #ピアノ協奏曲 #ピアノ協奏曲第4番 #クラシック音楽 #ライヴ録…

優勝とチーム内ライヴァルの重要性【田淵幸一氏が抱いた羨望】

4月27日、TBSラジオは同月23日に逝去した衣笠祥雄さんを追悼する番組を放送した。 www.tbsradio.jp この中で田淵幸一氏の次のような発言が強い印象を残した。 (コメント出演した山本浩二氏の発言を聞いて)僕はチーム内に同格のライヴァルがいなかった。タ…

ようやくひもとける『金鍾泌証言録』

ようやっと神奈川県立図書館がリクエストに応じてくれた。韓国政界きってのNo.2として重きを成した人物の回想にじっくり耳を傾けたい。#読書 #これから読む #図書館 #リクエスト #金鍾泌 #証言録 #回想録 #韓国 #韓国政治 #日韓関係 #ナンバーツー #JP #中曽…

衣笠祥雄の記録を繋いだ阿南準郎監督【三原脩からの影響】

[https://www.instagram.com/p/BiW24bvhMGW/:title=「67年秋、近鉄へのトレードを通告された広島の阿南準郎は、引退を決意した。30歳になり、そろそろ将来の生活設計を考えねばならなかった。《パのお荷物》と軽べつされているボロ球団へ移籍しても、明るい…

サヴァリッシュとブロムシュテットの叙勲【旭日中綬章は低い!?】

ひとから本を頂くことがある。ありがたい時、そうでない時、様々だが昔、親戚から貰ったこちらは典型的前者。川口幹夫氏は大河ドラマ、紅白歌合戦を確立したNHK中興の祖。一時期NHK交響楽団理事長に飛ばされたがその後のNHKで前代未聞の不祥事が発生して会長…

音楽を聴く馬力が急降下【ヒーリングで疲労困憊】

4月14日、九段下の九段教会でコンサートを聴いた。いわゆるヒーリング系の出し物でヴォーカル、フルート、ピアノのソロやアンサンブル。みんな優しいタッチの曲ばかり。ところが演奏中どんどん疲労していく。眠いのでなくとにかく疲れを覚えるのだ。「鳥の歌…

1982年のメニューイン②【フランク:ヴァイオリン・ソナタ】

妹ヘプツィバを失った翌年、新しい共演ピアニストにポール・コーカーを選んだメニューインは1982年11月に11年ぶりの来日を果たし、昭和女子大学人見記念講堂でのリサイタルに臨んだ。 choku-tn.hatenablog.com 渡辺和彦氏の著書によれば最初の曲目、ベートー…

My Favorite Things:ジョン・フェインスタイン『天国のキャディ』

ゴルフの祭典、マスターズ開幕。本番前のプレイヴェントのパー3コンテストで2018年はトム・ワトソンが優勝した。本書は2006年刊行。ワトソンとキャディのブルース・エドワーズのストーリー。ブルースは難病ALSに侵され、2004年のマスターズ第1ラウンドの朝に…

81歳の森祇晶が語るライオンズ、ジャイアンツ

「理想の監督」はハワイで悠々自適 子供の頃は西武ライオンズのファンだった。特に秋山幸二が好きで日本シリーズのバック転ホームインをテレビ中継で見た時の驚きは未だに鮮明。またチームを率いる森祇晶監督にも子供ながらに注目していた。きっとこのひとは…

箴言の宝庫『村山富市回顧録』が文庫に

日本における改革の実現や大きな外交成果達成は保守安定政権で周到な準備した場合が殆ど。早期講和、社会保険、安保改定、日韓国交回復、沖縄返還、日中国交正常化、三公団・公社民営化、全てそう。革新勢力が騒いで実現したことなど皆無に近い。革新のひと…

指揮する前の戦いに強かったひと【星野仙一氏をしのぶ】

星野仙一氏は1986年秋、ドラゴンズ監督に就任直後、ロッテとの契約更改交渉が拗れていた落合博満を獲得するよう球団に強く求めた。星野氏の回想によれば戦力として落合がぜひ欲しかったわけではなく、「もし巨人に取られたらウチは当分優勝できない」と考え…

冷めた眼と厚い情【星野仙一氏逝去】

1月4日に70歳で逝去した星野仙一氏は「巨人」に特別な思いを抱き続ける野球人生だった。 現役時代は巨人キラーとして活躍。「燃える男」のイメイジを纏いながら、実は緩い球を効果的に交える冷静巧妙な投球でONのタイミングを狂わせた。通算146勝のうち35勝…

「ねほりんぱほりん」の上をゆく養子の独白

27日放送のNHK-Eテレ「ねほりんぱほりん」のテーマ は「養子」。養子として育ったひとの葛藤の人生が語られた。しかし正直あまり面白くなかった。 2015年2月、安倍首相の実弟で生まれてすぐ母方の実家岸家の養子となった岸信夫・元外務副大臣が祖父と自身の…

「Mr.ロータリーエンジン」の光と影【山本健一氏逝去】

東洋工業(現、マツダ)のエンジニアとしてロータリーエンジンの実用化に尽力、後にマツダの社長や会長も務めた山本健一氏が12月20日に老衰で逝去した。95歳だった。 困難とされたロータリーエンジンの実用化の成功に貢献し、マツダに特徴ある自動車メーカー…

老政治家たちの悲しき願い【『金鍾泌証言録』と日韓関係】

日韓国交正常化に尽力した金鍾泌・元韓国国務総理の証言録の日本語版が新潮社から刊行され、その出版報告会に中曾根康弘元首相が出席、挨拶したという。 www.sankei.com 金鍾泌氏は韓国政界有数の知日家。日韓国交正常化の交渉過程で懸案だった日本の経済協…

中内功に疼いた『野火』の記憶

日本文学史上屈指の傑作 8月14日、NHK-Eテレ「100分de名著」は大岡昇平の『野火』の2回目だった。『野火』は言わずと知れた日本文学史上の傑作。飢えが覆い尽くす戦場での人間の暗部、異様な心理を簡潔な文体によって抉り抜く。私見だがこれ一作で大岡昇平は…

張本勲の原爆の記憶

戦後72年なお残る原爆の影 2017年8月14日のNHK総合「ニュースウォッチ9」で東京都にある被爆者相談所を取り上げていた。高齢となり健康不安におびえるひと、長年逡巡した末に原爆症の認定を受けるひとなど悩める被爆者たちの声とそれを聞く相談員が描かれた…

強すぎて嫌いだった千代の富士

7月17日、横綱白鵬は大相撲名古屋場所9日目に通算1045勝目を挙げ、第58代横綱千代の富士に通算勝利数で並んだ。白鵬は千代の富士を敬愛し、2015年に千代の富士が行った還暦土俵入りでは太刀持ちを務めた(露払い日馬富士)。この時「九重親方(当時)は人望…