アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

My Favorite Things:園田高弘のシューマンとブラームスの協奏曲【胸に秘めたロマンの心】

2017年5月6日のNHK-FMN響ザ・レジェンド」で池辺晋一郎氏が園田高弘さんとのエピソードを話した。

「(ある若いピアニストが)《ラヴェルのピアノ協奏曲を弾いていると海が見える》と話した。いい言葉だと思って園田さんに話したらラヴェルと海は何の関係もない!君ともあろう者がそんな話をするとはけしからん!》と怒られた」

園田さんの厳しい表情と口調が目に浮かぶが、実際の園田さんの演奏は決して定規で線を引いた生真面目系ではなく、むしろ色彩の変化に富み、ときに激しいパッションや夢見るロマンが漂った。

3月に発売されたNHK交響楽団との協奏曲のライヴ録音がまさしくそう。1枚目のサヴァリッシュと組んだ壮年期のシューマンブラームス1番は鋭い打鍵でリズムを強調したかと思えば、隣の音まで重なるほどの歌い込みも繰り広げる。友人のピアニストいわく「シューマンのリズムに取りつかれた感がとても出ている。ブラームスは十八番なんだなあと思う、頭が良くかつダイナミクスがあり、田舎のロマンチックさが出ていてとても良かった」。サヴァリッシュの指揮も結構振幅が激しく、ピアニストを引き立てる。

2枚目のブラームス2番は1999年の収録。心臓疾患に見舞われてからあまり間がない時期の演奏で時々不安定になる瞬間があるものの第1楽章のため息風の情感表現の冒頭とがっちりした骨格のもと、大きい凹凸で音楽を動かす主部のコントラストの強烈さ、第3楽章の温かいなかにやるせない翳が差し込む響きは破格。惜しいのはコウトの指揮がのっぺりしていてつまらないこと。当初の予定通りホルスト・シュタインだったら手厚くも弾力のあるサウンドで充実の共演になったはず。

実はこの演奏会の数日前にN響の団員を偶然CDショップで見掛けた。彼は連れの女性に「シュタインがキャンセルしちゃってやる気出ないよ」とボヤいていた。当日大叔母と聴きに行った私はオーケストラのダラっとした音にがっかり。N響のこういうところは本当困りもの。ただ第3楽章のチェロのソロは美しかった。
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こちらは1990年6月、朝比奈隆との共演。冒頭のホルンソロは千葉馨。感情過多気味の指揮に園田さんは凛とした力強いタッチで応じる。映像監督は実相寺昭雄

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園田さんはブラームスの音楽が持つ「ロマンティックな内容を無理に理路整然と語っている感とそれが醸し出す屈折」を描き出すのが抜群にうまかった。それは園田さん自身が人一倍のロマンの心やパッションを持ちながら(持つからこそ)、あえて胸にしまいこみ、楽譜を論理的に弾き込む姿勢に徹しようとしたから。晩年はパッションが表に出る演奏も多かった。

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日本人のピアニストでステージ姿に威厳を感じたのは園田さんただ一人だし、録音聴く度に面白さを見つけられるのも園田さんくらい。もっとライヴ音源を聴きたい。シュタイン:N響とのフルトヴェングラーの交響的協奏曲は音源残っているのだろうか。

シューマン:-ピアノ協奏曲-Op-54;-ブラームス:-ピアノ協奏曲第1番,-第2番

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番-(2-15-2002):園田高弘(p)-大山平一郎指揮-九州交響楽団

NHK交響楽団 世界一周演奏旅行1960

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ブラームス: 交響曲第4番, ピアノ協奏曲第2番