アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

My Favorite Things:朝比奈隆のベートーヴェン【俵孝太郎のintoxicateコラムから】

日本人演奏家紹介のパイオニア

かつてニュースキャスターやクイズ番組「マジカル頭脳パワー」の解答者としてお茶の間でおなじみだった政治評論家の俵孝太郎氏(1930-)はクラシック音楽ファン。単なる趣味に止まらず、日本のクラシック音楽受容史を録音の観点からとらえようと、現在ほど日本のクラシックアーティストの録音や映像が注目されなかったレコード時代に音源をコツコツ蒐集した。コレクションから汲み取ったものは著書『CDちょっと凝り屋の楽しみ方』(絶版だが古本の入手は容易)とタワーレコードのフリーマガジン『intoxicate』の名物コラム「クラシックな人々」に織り込んでいる。このコラムは『intoxicate』が20年以上前に『musee』のタイトルで創刊以来、唯一継続中のレギュラーコーナー。

ニュースキャスター時代の俵氏

youtu.be

ベートーヴェン交響曲全集録音盤のコレクターでもある俵氏2017年8月号(#129)から「クラシックな人々」で日本人指揮者・日本のオーケストラが手掛けたベートーヴェン交響曲全集についてのシリーズを始めた。第1回は朝比奈隆そこで俵氏のコラムを補いつつ、私自身の思いも綴る。

10指に余る朝比奈隆ベートーヴェン交響曲全集録音

俵氏のカウントだと朝比奈隆ベートーヴェン交響曲全集はCD・DVD合わせて11種類。同一演奏のCDとDVDは区別し、最晩年のオクタヴィアの同曲異演2枚組は2種類と数えている。今回はこのカウントに沿って書くので『intoxicate』#129をお持ちの方はpp.58の俵氏のコラムを横目に御覧頂ければと思う。以下段落冒頭丸囲みの番号は記事中の番号と対応している。オーケストラは断りなければ全て大阪フィル。

②1977-1978年ライヴ

最初のCD化の際、第5番のみ1982年東京ライヴに差し替えられたが2004年の再発で1977年ライヴの第5番が初CD化された。

朝比奈隆/ベートーヴェン コレクションBOX<完全生産限定盤> - TOWER RECORDS ONLINE

このボックスは廃盤だが受注生産のMEG-CDで個別に入手可能。

朝比奈隆/[Vol.4]ベートーヴェンコレクション - TOWER RECORDS ONLINE

※2019/2/6追記※SACDシングルレイヤーの限定盤ながらボックスが復活した。

【SACD】ベートーヴェン: 交響曲全集、ミサ曲集(1977-78年ライヴ)、<特別収録>交響曲第5番(1982年ライヴ)<タワーレコード限定>

結構荒れ狂った演奏が並ぶ。とりわけ第3番、第5番、第7番、第9番はインパクト大。

③1985年ライヴ

音響の良いザ・シンフォニーホールでのデジタル録音。演奏、音質ともにハイレヴェル。②と比べるとオーケストラの弦楽器の精度が大幅に向上、曲同士の出来の差が殆どなく、押しの強さと造形美、響きの見通しのバランスがとれている。なかでも第1番、第3番、第4番、第9番は素晴らしい。このコンビを代表する名盤。バラで一部の番号は入手可能だがボックス再発が待たれる。

朝比奈隆/ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」 - TOWER RECORDS ONLINE

⑤1988-1989年ライヴ

新日本フィル。評価の高いCD(現在はハイブリッド化されたボックスベートーヴェン交響曲全集)の映像。ただし9番は別テイク(CDの前日)。

新日本フィルハーモニー交響楽団/ベートーヴェン: 交響曲全集(実相寺昭雄 映像監督) / 朝比奈隆, 新日本フィルハーモニー交響楽団, 晋友会合唱団, 他<初回生産限定盤> - TOWER RECORDS ONLINE

➅1991年ライヴ(第9番)、1992年ライヴ(第3番・「レオノーレ」序曲第3番と第5番)、1992年セッション(第1,2,4,6-8番)

健康状態や大阪フィルの運営上の問題を抱えたなかカラヤンの記録を抜くために作られた全集。そういった事情を反映して1992年ライヴの第3番と第5番は好演だが他の番号は楽曲単位どころか楽章間でもムラが目立つ。例えば第7番はセッション録音にもかかわらず演奏上の不備(第1楽章など)や編集ミス(第3楽章)がある。

ベートーヴェン: 交響曲全集(1991-92)+朝比奈隆「私とベートーヴェン」インタビュー付<タワーレコード限定>

⑦1996-1997年ライヴ

朝比奈隆の人気が最も高かった頃の演奏。出来不出来の差が小さくオーケストラの響きやアンサンブルの精度は安定しているが若干淡白な質感の番号もある。録音は優秀でマスの拡がりと解像度の高さを兼ね備える。元記事下の紹介見るとハイブリッド盤のボックスがあるように見えるがハイブリッドで世に出たは2008年のバラ売りのみ(マルチチャンネルあり〔廃盤〕)。2011年再発のボックスは通常CDだった。

※追記※2020年7月、タワーレコードとオクタヴィアレコードの協力によりSACDハイブリッド盤(マルチチャンネルはなし)のボックスが発売された。

筆者によるミニレビュー

mikiki.tokyo.jp

ベートーヴェン: 交響曲全集 (6回目) (1996-1997)

⑧⑦の映像。朝比奈隆初のDVDだったので当時話題になり、高価にもかかわらず結構出回った。音質、画質は良好。ABCで放送されたリハーサル風景や若き佐渡裕との対談が特典盤としてつく。中古の入手は容易。

⑨2000年ライヴ

初出は前述の同曲異演2枚組のバラ売り。ハイブリッドのセットはバラ売り時代のCD1を軸にゲネプロのテイクも含めて再編集したマスターを使用している。なのでこのチクルスを1番いい形で聴きたければ迷わずハイブリッドのセット。値段も手ごろだし。時折集中力の低下を感じる箇所はあるが、重厚長大さの中に最晩年の朝比奈隆らしいちょっとしたテンポの動きが入る面白いチクルス。第3番、第9番は充実の内容。

ベートーヴェン:-交響曲全集:-第1番-第9番-(3-12-2000)----朝比奈隆指揮,-大阪フィルハーモニー交響楽団

なおバラ売りの9番のCD2には恒例のアンコールだった合唱団のアカペラによる「蛍の光」が収録。

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」-朝比奈隆指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団

※2021年にオクタヴィアレコード×タワーレコードの企画で同曲異演を収録したSACDハイブリッド盤のボックスが発売された。なお、初出時のバラ売りディスクに含まれたリハーサル風景や「朝比奈隆アーカイブス」は省かれた。第9の「蛍の光」は聴ける。

【追記】

2018年にそれまで未発売だった新日本フィルとの1997年-1998年のチクルスがCD化。

choku-tn.hatenablog.com