アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

12/8服部龍二『佐藤栄作』刊行【「戦後最長不倒宰相」の初の本格評伝】

池田勇人田中角栄の人気の影で

戦後最も長期間(2798日)首相の座にあり、日韓国交正常化や小笠原諸島と沖縄の返還を成し遂げ、1970年大阪万博も成功させ、退任後にノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作(1901-1975)。在任期間の長さ、業績の数々、功罪相半ばの存在感、どの面から見ても戦後日本政治外交史にそびえたつ首相と言える。ところが佐藤内閣の政策についての論考は多くあるが佐藤栄作そのひとに関する著作は少ない。前任の池田勇人、後任の田中角栄関連書籍の百花繚乱状態とは対照的。

過去、佐藤栄作に焦点をあてた書籍として有名なのは山田栄三の『正伝 佐藤栄作』(新潮社;1988年)。これは朝日新聞の佐藤派担当だった著者が佐藤家の協力を得て、当時未公刊の「佐藤栄作日記」(1997-1999年に朝日新聞社から刊行)にアクセスして著したいわば公式の伝記。本の性格上、佐藤栄作の卓越性をあぶり出す筆致になっているが元記者としての冷静な視点で74年の生涯を丁寧かつ起伏豊かに描いた力作。

続いて世に出たのは朝日新聞の元政治部次長、堀越作治による『戦後政治裏面史-《佐藤栄作日記》が語るもの』(岩波書店;1998年)。タイトル通り公刊された「日記」を詳細に分析して佐藤栄作の視点で戦後日本政治、自民党の歩みの実像に迫るもので四六判300ページ強の割に読み応えあった。

また佐藤栄作の意向で起用され、7年8か月首相秘書官を務めた元産経新聞記者、楠田實の日記が2001年に『楠田實日記-佐藤栄作総理首席秘書官の2000日』(中央公論新社)と題して出版。首相そして人間佐藤栄作の内面が垣間見える内容で注目を集め、同時に研究者にとっての有力1次史料となった。

以上3タイトルはいずれも新聞記者とそのOBの著作(もしくは日記)。意外にも日本政治外交史の研究者が佐藤栄作を見つめた著作は今日まで殆ど見当たらなかった。

脂の乗り切った研究者が満を持して送り出す1冊

服部龍二(1968-)は中央大学総合政策学部教授(日本政治外交史・東アジア国際政治史専攻)。1次史料の読み込みと当事者に対する聞き取りの巧みな相互連関で専門書に加え、多くの優れた一般向け書籍を著している。特に『日中国交正常化』(中公新書)は高い評価を受けた。近年は政治家の評伝執筆に取り組み、戦前の広田弘毅、戦後の田中角栄大平正芳そして存命の中曾根康弘まで手がけた。そしてついに「戦後最長不倒政権」を築いた佐藤栄作に挑む。日本政治外交史の研究者がものした初の佐藤栄作の評伝。しかも手に取りやすいソフトカバー。師走に登場した画期的な1冊。※敬称略