アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

日本人の指揮者・日本のオーケストラによるベートーヴェン【俵孝太郎のintoxicateコラムから】

 かつて日本テレビ系のクイズ番組「マジカル頭脳パワー」の解答者としておなじみだった政治評論家の俵孝太郎氏はクラシック音楽好きの顔も持つ。ベートーヴェン交響曲全集や日本人演奏家の音源の熱心な収集で知られ、タワーレコードの隔月刊フリーマガジンintoxicateにレギュラーコラム「クラシックな人々」を20年以上連載中。

俵氏は2017年8月号(#129)~12月号(#131)掲載分で「ベートーヴェン交響曲全曲盤コレクターとして伝えておきたいこと」と題し、3回にわたって日本人の指揮者もしくは日本のオーケストラによるベートーヴェン交響曲全集録音(計31組)を回顧した。#129掲載の朝比奈隆は既に取り上げたので残り2回の掲載アイテムから何点かピックアップし、俵氏のコラムを補い、私なりのコメントをつけてみた。音源が複数ある指揮者の場合、丸囲みの数字は元記事のそれと対応している。ぜひ手元にintoxicateを開いて御覧頂きたい。

choku-tn.hatenablog.com

岩城宏之(3種類)

NHK交響楽団との1968年-1969年セッション録音。ギュッと締まった響きでテンポよく運ばれる好演。演奏内容に凹凸がなく、日本人指揮者と日本のオーケストラが初めて完成したベートーヴェン交響曲全曲録音として今なお輝いている。3番はやや乾いた音質だが名エンジニア若林駿介氏が携わった5番、7番などは生々しさと包容感のバランスのとれた優秀録音。特典として4番、8番、9番のリハーサル音源。壮年期の岩城さんのやる気満々の指示が聞ける。

②オーケストラ・アンサンブル金沢と1994年-1995年に浜離宮朝日ホールで行ったライヴ録音。解説書の充実、装丁の立派さに対し肝心の音像が遠くて聴きづらい。限定制作だったが中古市場での入手は容易。同じ顔ぶれ、ホールでのモーツァルトの名曲ライヴ収録セットもコジマ録音から出ていた。こちらは演奏、音質ともに良かった。

③2004年12月31日、一晩で全曲振った公演のライヴ録音。NHK交響楽団有志によるオーケストラで個々の演奏の出来はしっかりしている。各曲ごとに開始と終了時間が記載。この年、翌年ともにテレビ放送されており映像が存在する。

ベートーヴェンの1番から9番までを一晩で振るマラソン

小澤征爾

サイトウ・キネン・オーケストラとの1993年-2002年のライヴ、セッション録音を積み上げたもの。心技体の充実期にあった指揮者、名手揃いのオーケストラの顔合わせだが音質がピリッとせず印象の薄い録音になってしまった。第3番はYoutubeに転がっている松本でのライヴの方が遙かに覇気があって立派だし、第9番はDVDの音質がCDよりずっといい。


Beethoven: Symphony No.3 "Eroica" / Ozawa Saito Kinen Orchestra (1997 Movie Live)

ベートーヴェン:交響曲第4番、第7番、第8番ほか〔DVD〕

ベートーヴェン:交響曲第9番≪合唱≫〔DVD〕

尾高忠明

ダークホース的名盤。透明度の高いすっきりしたサウンドできっちり仕上げられ、しなやかな力強さを感じさせる。2011年9月-12月に札幌交響楽団と行ったチクルスのライヴ録音。音響の優れたホールでの短期集中プロジェクトのため、演奏内容に統一感があり、SACDハイブリッド盤の音質も上々。

ベートーヴェン:交響曲全集

ハインツ・レーグナー

読売日本交響楽団と1986年-1994年に行ったライヴ、セッション録音の集成。まっとうだがそれ以上に迫ってこず、ベルリン放送管弦楽団との序曲全集の素晴らしさからは遠い。本来もっと中身の濃い演奏でもおかしくないが、指揮者が全盛期を過ぎていたことや読響が現在の充実からするとまだ発展途上だった点が惜しまれる。8番にちょっとだけレーグナーらしい透かしの妙が聴ける。なお初出時には2番と8番の各々の余白にワーグナー管弦楽曲、5番の余白にグルックの序曲、7番の余白にバッハのアリアが収録されていた。

ベートーヴェン:交響曲 第7番/第8番

ベートーヴェン:序曲全集

ゲルト・アルブレヒト

読売日本交響楽団との1999年-2000年のライヴ、セッション録音の集成。リリース第1弾の第1番、第8番を聴いたとき、読響のレヴェルが短期間のうちに向上したことがはっきり分かって驚いたのを思い出す。アンサンブルのシャープさ、切り返しの反応力、いずれもワンランク上になった。魅力の点でイマイチのナンバーもあるが、アルブレヒトのもとで読響が飛躍し始めた第1歩として記憶にとどめたい。