アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

My Favorite Things:マルケヴィッチと日本フィル【知られざる絆】

イゴール・マルケヴィッチ(1912~1983)は日本の楽団と壮年期から晩年まで断続的に縁を保った指揮者。日本フィルからは名誉指揮者の称号を贈られ、死の二ヶ月前には耳の病気の影響でほぼ聴力を失った状態ながらNHK交響楽団東京都交響楽団に客演している。幸い彼の場合DVDとCDで日本での演奏をいくつか味わえる。

DVDは1968年に日本フィルを指揮した時のライヴ収録でストラヴィンスキー春の祭典とダフニスとクロエ第2組曲ブラームス交響曲第4番とラヴェルのラ・ヴァルス。モノクロながらまずまずの画質でストラヴィンスキーブラームスはステレオ音声。まず驚くは眼光の鋭さ。もう出てきたときから楽団員を突き刺す眼差し。これで見られたら誰だって真剣にやるだろう。日本フィルの楽団員は怖かったに違いない。そして演奏が始まると長めのバトンを用いてビシバシっと一点の曖昧さもない指揮ぶりに見ている側の背筋が思わず伸びる。日本フィルが懸命に喰らいつく。

特に圧倒されるのは「春の祭典」とブラームス。前者は1960年の初来日時に一大センセーションを巻き起こしたマルケヴィッチの十八番。ここでもアンサンブルをがっちり引き締めて克明なまでにリズムを刻み、徹底的に無駄を削ぎ落としながら、肉感的な迫力のある響きを展開している。ミスこそ散見されるものの音楽の歩みは確かで終わった後の聴衆の反応は熱狂的。一方のブラームスは全てを取り払った後になお残る作品の悲劇性をあからさまにしたような、厳しく強靭な響きに心震わされる。徹頭徹尾ハードボイルドな描き方は作品のイメージが変わってしまうほど。とりわけ4楽章のパッサカリアの執拗なまでの刻み込みは凄まじく、日本フィルが渾身の力演で応える。ちなみに両曲とも終わった後のマルケヴィッチの顔には笑みが。目もとも緩んでおりまるで別人。

ブラームス:交響曲第4番、ラヴェル:ラ・ヴァルス/マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団

CDでは最晩年に客演したNHK交響楽団との「悲愴」のライヴ録音があまりにも有名だが、ここでは1970年に日本フィルでセッション録音された音源(東芝EMI)を取り上げたい。曲目はデュカス「魔法使いの弟子」、プロコフィエフ:古典交響曲ラヴェル:ラ・ヴァルス、ファリャ「三角帽子」第2組曲で全盛期の至芸を安定した音質で楽しめる魅力的な一枚。とにかく感心するのは響きの色彩の鮮やかさと多様さ。聴きなれた曲が目の覚める輝きを放って生き生きと躍動。オーケストラのアンサンブルにも強烈な一体感があり、ラヴェルプロコフィエフではそれをはっきり実感できる。日本の楽団にこのアンサンブルをさせるには相当締めあげなければ無理だし、事実リハーサルは本当に厳しかったという。

マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団/魔法使いの弟子~管弦楽名曲集

「ディアギレフの最後の恋人」といわれたマルケヴィッチ。少年時代に「僕は永遠のものに興味があるのです」とディアギレフに語ったという。また「真の芸術家は賞賛されようとは思わない。妥協しないだけだ」という言葉も遺した。そんな音楽家が日本で度々壮絶な名演を展開した事実は興味深い。一体彼の胸中はどうだったのだろう。

マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団/ストラヴィンスキー:春の祭典、ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

マルケヴィッチ(指揮) NHK交響楽団/(1)チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」 (2)ムソルグスキー:展覧会の絵(CD)

マルケヴィッチ:NHK交響楽団/チャイコフスキー:交響曲 第6番「悲愴」、 ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」(DVD)

マルケヴィッチ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団/マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』

マルケヴィッチ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団/チャイコフスキー: 交響曲第4番