アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

81歳の森祇晶が語るライオンズ、ジャイアンツ

「理想の監督」はハワイで悠々自適

子供の頃は西武ライオンズのファンだった。特に秋山幸二が好きで日本シリーズのバック転ホームインをテレビ中継で見た時の驚きは未だに鮮明。またチームを率いる森祇晶監督にも子供ながらに注目していた。きっとこのひとは頭のいいんだろうなと。いつしか森氏は「理想の監督」となった。

15年前からハワイに移住し、穏やかな第二の人生を過ごす森氏。2018年2月10日の「巨人宮崎キャンプ60周年・ホークス球団創立80周年記念OB戦」のタイミングで久々に来日。その後スポーツ報知の取材に応じた。

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森氏はライオンズ監督時代、根本陸夫管理部長と坂井保之球団代表のバックアップのもと、動物園みたいなメンバーを気持ちよく働かせつつ、グラウンド外まで留意しながら「球際に強い」野球を浸透させた。そして上記リンクに書かれているように選手同士がお互いに厳しく高め合うところまでチームを磨き上げた。こうした森氏の野球の原点は現役時代を過ごした川上哲治監督率いるジャイアンツにある。

浜田昭八『監督たちの戦い』には川上野球の神髄と森氏に与えた影響が記されている。

緊張感はなかなか持続しない。長いペナントレースの間には、どんなに強いチームでも気が抜けることがある。監督は折をみて、気分を引き締めなければならない。これが難しい。「勝っている時は厳しく、負けているときは穏やかに、というのが引き締めの定石とされている。だがそれも状況によりけりで、定石はないと思う」と、川上は十四年間の監督体験をふまえて言った。

確かなことは、「監督が一生懸命でないと、チームを引っ張れない」だった。試合前に必ずミーティングをする。開幕や節目の時期には、気合を入れて訓話をする。選手はアマチュア時代から、この種の話は聞きあきている。生半可な話だと、聞き流す。「だから、毎日のミーティングのネタを仕込むのに大変だった」と回想した。

その訓話の中で、V9ナインが今も口にするのは、「球際に強くなれ」。置かれた立場によって、受け止め方は千差万別だった。一番ポピュラーな解釈は、守備面での、「あと一歩」だった。グラブが数センチ伸びるだけで走者を止め、改めて防ぐ手を打つことができる。その数センチのためにやるのが練習だというわけだ。

ミーティングでの話を、克明にノートに書き留めた人間が二人いた。コーチ牧野茂と、捕手森昌彦(雅晶)である。牧野は84年に56歳で亡くなった。川上によると、森のノートは積み上げると、「一尺ほどになった」。西武監督の就任に際して、じっくりと読み返した森は、「おやじさん、いいこと話してますね」と、川上に言ったそうだ。(下巻pp.273-pp.275)

また同書によれば川上巨人では王、長嶋の両雄でも怠慢プレーにはチームメートからの突っ込みが入ったという。

長嶋がバント守備のサインを見落とすと、黒江が「ちゃんとやってくれないと困ります」と文句を言った。王が集中力を欠いた動きをすると、土井が「野球はホームランだけではないですからね」と、ズケズケと言った。

「監督、コーチの目をごまかせても、そばにいる同僚は見逃してはくれない。こうして選手同士が切磋琢磨して、強くなったと思う」と、川上はしみじみと言った。

まさに記事中で森氏が言及した黄金時代のライオンズの姿そのもの。森氏は「門人」として川上さんの野球をきっちり吸収し、その上で監督に就くと取りこんだものを黒江氏、伊原氏などのコーチを使ってうまく形にした。奔放にやらせているように見せて実はフロントのバックアップのもと手綱を握り、5年連続全球団勝ち越しの常勝ライオンズを築いた森氏の手腕は破格。

そんな森氏にとって2017年シーズン、13連敗を喫してBクラスに転落した古巣ジャイアンツの姿は何とも歯がゆいのだろう。記事では守備面を中心に厳しい指摘が。

「ちょっとひどすぎるな。(昨年の)4位なんて、チーム全体が屈辱的だと、危機的だという意識を持たないと。投手だって決して悪くない。十分、勝てる戦力ですよ。もどかしい」

「一番いい例が去年の西武。辻が監督になって、ものすごく多かった失策を減らして、機動力を使って結果を残していった。本塁打が出やすい球場だからと、偶発的なものに頼っていては勝てない。まずは投手、守り。足を絡ませるとか、点の取り方はいくらでもある。首脳陣がどういう戦い方をしていくかポリシーを持って、選手に理解させていかないと」

最後の「ポリシーを持って」の部分は高橋由伸監督以下、現首脳陣に対する強烈なメッセイジ。いま距離を置いていてもジャイアンツのユニフォームを着たものとしての矜持、チームに対する愛情が感じられるインタビューだった。

森氏率いるライオンズでプレーした選手の中からは日本一監督の秋山幸二工藤公康渡辺久信をはじめ多くの指導者が生まれている。野村克也氏いわく「名将、知将はあまたいるが《人づくり》のできる監督は少ない。昔なら川上さん、西本さん。存命人物では森、上田(2017年逝去)。こういうのが本当の大監督」。

※記事中に森氏の趣味として料理が登場する。佐々木信也氏はかつてNHKのテレビ講演で森氏が監督在任中から息抜きに料理をしており、魚をおろすための包丁を特注したほど入れ込んでいたと話していた。

〔参考文献〕

浜田昭八『監督たちの戦い 決定版』(日経ビジネス人文庫;2001年)

佐々木信也知るを楽しむ この人この世界:個性がプロ野球を救う』(NHKテレビ講演テキスト;2005年)