思い出から俊英の拓く新たな1ページまで
20年以上前、ヴォルフガング・サヴァリッシュがフィラデルフィア管弦楽団と来日してベートーヴェンチクルスを行い、公演の模様はFMで中継された。この放送を聴いて初めてベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を聴いた
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮、シカゴ交響楽団(1989年)
最初に買ったCD。当時は税込2,000円
ショルティ指揮、シカゴ交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第3番・エグモント序曲(1989)
ギュンター・ヴァント指揮、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団(1989年ライヴ)
ショルティの次に懐かしい英雄。昔、買ったCDはシューベルトの「未完成」交響曲とカップリングされていた。作品の細かい面白さ、革新の論理を味わうならこれ。澄み切った和音、ア
ギュンター・ヴァント(指揮)、北ドイツ放送交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第3番、レオノーレ序曲第3番 1989年&1990年ライヴ
Gunter Wand - Live Recordings<限定盤>
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、読売日本交響楽団(2002年〔BMG〕)(2012年〔DENON〕)
どちらも会場で聴いた。2002年ライヴは薄めのサウンドでテキパキ運び、ジグソーパズルよろしくピタッと決まった音楽。ちょっと小さいまとまり。10年後の演奏は大化けしている。冒頭の和音2つから密度の濃い響き、速いテンポなのに「流す」ことがなく練り上げられた各パートのブレンド、透かし彫りの妙技の連続。解像度、勢い、奥行きを高次元で融合させている。
スタニスラフ・スクロヴェチェフスキ指揮、読売日本交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第3番(2002)
スタニスラフ・スクロヴェチェフスキ指揮、読売日本交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第3番-第5番他(DENON)
ガリー・ベルティーニ指揮、ケルン放送交響楽団(Altus)
響きの透明感、楽想の変化に対応する鋭敏さではナンバーワン。どこをとっても美麗で瑞々しく強弱の変化の付け方が丁寧。両端楽章が特に充実。
ガリー・ベルティーニ(指揮)、ケルン放送交響楽団/ベートーヴェン: 交響曲 第3番
ジャン・マルティノン指揮、フランス国立放送管弦楽団(1970年ライヴ)
最近聴いたなかで心に残った1枚。フランスはベートーヴェン受容に関しては一家言ある国。ベートーヴェン生誕200年記念としてシリーズ演奏会を行ったようでAltusなどから他の番号や協奏曲もリリース済み。がっしりした骨格を形作り、中庸のテンポでよどみなく運ぶ。鳴らしこんだ時の音の質感が艶美なのはお国柄だろう。
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ここからは未来の話。自ら率いる東京ユヴェントス・フィルハーモニー管弦楽団とブルックナー、マーラーの名演を連発、いま最も才能が煌いている指揮者、坂入健司郎が2018年4月28日(土)にベートーヴェンの交響曲第3番を取り上げる。同じ演奏会ではオーケストラ・アンサンブル金沢のチェリストとしておなじみ、品格漂うマホガニーの音色を奏でるルドヴィート・カンタとのドヴォルザークも。
choku-tn.hatenablog.com坂入は2018年1月に発売のスクロヴァチェフスキ指揮、NHK交響楽団のベートーヴェンライヴ録音集のライナーノーツを執筆した。先人の業績を踏まえつつ、白紙からベートーヴェンの本質に迫る意向が覗える。2020年のベートーヴェン生誕250年が近づくなか、どんな「英雄」像を彫り出すか、ワクワクドキドキ。
※文中敬称略
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、NHK交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第3番、第4番、第7番、序曲集(Altus)
坂入健司郎(指揮) 東京ユヴェントス・フィルハーモニー/Mahler: Symphony No.3; Brahms: Ave Maria; Wolf: Elfenlied
坂入健司郎(指揮) 川崎室内管弦楽団/Mozart: Sinfonia Concertante K.364, Symphony No.41