※一部ネタばれあり※前回の続き。
第8位:銀星号事件(『シャーロック・ホームズの回想』)
ラストシーンは競馬のルール上あり得ない展開だし、銀星号の行動の動物学的矛盾もしばしば突っ込まれる作品。しかしホームズの驚くほど快活な行動ぶり、大胆な推理(犬と羊!)、ときにユーモラス、ときに皮肉っぽく、ときに凄みを利かせる会話術の巧みさは小さい欠点を吹き飛ばす。グラナダテレビ制作のテレビドラマ版は終盤に脚色を加え、競馬シーンの無理をなくしている。ロス大佐役のピーター・バークワースがチャーミングだった。
第7位:ソア橋(『シャーロック・ホームズの事件簿』)
ドイル晩年の佳作。ワンアイデア勝負の短編としてもコンパクトな内容だが被害者、依頼人、被疑者のインパクトなど別の魅力もあって再読できる出来ばえ。テレビドラマ版は3者の関係や依頼人とホームズのさや当てを丁寧に描き、起伏のあるエピソードに仕立てている。
第6位:金縁の鼻眼鏡(『シャーロック・ホームズの帰還』)
犯人が現場に落とした鼻眼鏡を手にしてその顔だちまで探るホームズの推理が絶妙。『青いガーネット』における帽子の推理の二次使用だが今回は犯人と繋がる強力な物証ゆえ、ホームズの推理の鋭さが違う。テレビドラマ版には何と原作にないチャールズ・グレイ演じるマイクロフト・ホームズが登場し、この推理を行う。さらに終盤のクライマックスでホームズが自らの推理の確証を得るために煙草の灰を利用するシーンはマイクロフトの嗅ぎ煙草に変更。
物語の核心を握るコラム教授のキャラクターは強烈。脇役まで魅力ある人物を創出するドイルの才気が発揮。