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文化・社会トピック切抜き帖

園田高弘『ピアニスト その人生』【生涯現役の厳しい道】

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演奏家としての矜持、カラヤンやチェリビダッケとの共演、欧州での苦労。日本語で読めるピアニストの自伝の最高峰。日本人の演奏家による著作物の頂点。基になった日本経済新聞「私の履歴書」のためのインタビューをまとめた池田卓夫氏の手腕の賜物。余白の若き日に著した欧州滞在記の抜粋も面白い。#園田高弘 #春秋社 #超愛読書 #池田卓夫 #読書 #私の履歴書 #日本経済新聞 #ピアニスト #自伝 #レオシロタ #カラヤン #チェリビダッケ

ピアノは歌詞のない歌、無言歌のようなものだ。背景にあるものを蓄積して、それが血となり肉となって、初めて指先から音楽になってくる。楽譜を見て音符をただの音の響きとして還元するだけの動作ではまったく虚しい。そう思えたのは、ヨーロッパへ行き、さまざまな挫折を繰り返して涙を流した経験を経たからだ。(中略)
僕は、同世代のピアニストと比べて、幸せな後半生を送っているかもしれない。しかし逆に言えばそれは、ずっと現役で仕事を続けてきたからだと思う。確かにステージで恥はかきたくない。しかし、新しい曲にも挑戦したいという気持ちも変わらず持ち続けている。教職について給料をもらい、左うちわで暮らすより、僕は生涯一ピアニストを貫きたい。芸術家は最後まで現役であるべきで、それが嫌ならやめたらいいと思う。(中略)
楽家はいい演奏をすることが使命だ。チェリビダッケの言葉を引用するなら、「我々のやっていることは、大海に指をさして穴を開けているようなものかもしれない。手を引けば水は元通りになってしまって虚しい。でも、それをすることが音楽家としての使命なのだから」。
人生は哀しみと愛、失敗と挫折の繰り返しである。一見、淡々と見える精神構造にも、多層的な傷跡が残っている。

楽家、芸術家の神髄が集約された言葉。日本の男性ピアニストはある年齢以上になると仕事が激減する。従って生活のため教授業やレッスンに精を出すことになる。するとコンサートピアニストとしての研鑽がままならず、もはや内輪の集まり位でしか演奏できなくなる。園田高弘(1928-2004)が生涯現役を貫けたのは仕事があったから。それが偉大だし、最晩年まで洞察力とパッションが渾然一体となった至芸を聴かせた。最後のコンサートで弾いたのはラフマニノフピアノ協奏曲第2番。生涯現役を体現し切った76年の人生だった。

ピアニストその人生

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