アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

【Hatena Blogお題投稿】秋の夜長に読む本2018

今週のお題「読書の秋」

昨年に続いて。

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1.堤清二(述)、御厨貴、橋本寿朗、鷲田清一(以上編集)『わが記憶、わが記録-堤清二×辻井喬オーラルヒストリー』(中央公論新社

子供の頃、親に連れられて「セゾン文化」の全盛期を肌で感じた世代なので堤清二辻井喬)の名前には得も言われぬ懐かしさと苦みを感じる。最近「再認識」の機運があるのは面白い。詩人として歩みだしたところに心ならずも流通グループのトップに座り、ままならぬ現実に対して逃げるでも戦うでもなく、斜めから向き合いつつ、試み、「無印良品」やライフスタイルを消費するモデルの提案で成功するも、結局核心のところが側近とも行き違っていて、最後は破綻する。本書の読みどころはその過程が本人の口から語られる点。血筋、送ってきた人生、出会い、関わったひとの顔ぶれ・・・それら全てに「業の深さ」がずっしり。端正な口調の向こう側にあるものの複雑さに読んでいて胸が痛む。昭和の終わりから平成の日本がどこからボタンを掛け違ったかを考えるうえでも示唆に富む。

このひとの場合、経営者としては事実上レッドカードを出されても、もうひとつの詩人、文学者の人格があり、そちらの価値は些かも揺るがなかった。むしろどんどんその領域を拡大し、賞や顕彰まで受けた。残された名文と本書を両にらみすれば、美しい言葉に排出していた澱との葛藤が浮かび上がる。

2.山崎正和(述)、御厨貴阿川尚之苅部直、牧原出(以上編集)『舞台をまわす、舞台がまわる-山崎正和オーラルヒストリー』(中央公論新社

劇作家、文明批評家、思想家・・・3つの世界を縦横に生き、佐藤政権のブレーンとしても活躍した山崎正和(2018年文化勲章受章)。本当の保守、保守人のありようを教えられる証言録。その原点は子供時代、思春期前期にある。やはり原体験を持っているひとは一本違うなと改めて思う。

3.村山富市(述)、薬師寺克行(編集)『村山富市回顧録』(岩波現代文庫

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4.後藤田正晴(述)、御厨貴(監修)『情と理-カミソリ後藤田回顧録』(講談社+α文庫)

戦前は官僚から軍人、戦後は官僚から政治家へ。幾重にもなる人生を歩んだひとの放つ言葉の楔。生々しくもあり、はぐらかしているようでもあり、あの顔のしわで語るさまが創造できる。情報収集と活用、サイバー危機への備えの欠如など今日を見通し、いまだ果たされていない要素がたくさん。強烈な自我と矜持は持ちつつ、好き嫌いを超えて能力があるとみなす権力者に仕えた「最強のナンバー2」。このタイプの人材の欠如が昨今の行政府で露見するありえない不祥事、不手際の原因だろう。

5.川島裕著『随行記-天皇皇后両陛下にお供して』(文藝春秋

2003年~2015年に宮内庁式部官長や侍従長を務めた筆者。いつも力むことなく背筋を伸ばして両陛下の後ろに控える姿が印象深い。不本意な形で外交官としてのキャリアが絶たれたことを思えば、やりがいのある仕事で官僚人生の幕がひけて良かったのでないか。淡々とした筆致から読み取れるのは接する国民ひとりひとりに何か「お土産」を授け、「天皇皇后両陛下や皇室があって良かった」と感じてもらうようにする天皇皇后両陛下の誠実かつ巧みな振る舞い。本当に両陛下は辛抱強いやり手でいらっしゃる。逆に言うと現在の皇太子ご夫妻=新天皇皇后両陛下に欠けているものもはっきり分かる。