伊福部昭は正直苦手な作曲家だが井上道義らしいガリっと鋭いリズム処理と鳴り物打ち物から極彩色のこぼれる切り返しの妙で聴き通せた。
2曲目のメモリーコンクリート(2004)は自身の音楽的原風景から始めて、マーラーやショスタコーヴィチの引用を交えて興隆に富んだ遍歴をたどり、途中上着を脱いで(ミッキー柄のトップスだった!)タップを見せるなどシアターピースの趣もあった。
中盤の誰からも相手にされず指揮が手詰まりとなり、「ごめんなさい」と言って再び立ち上がるシーンはいくつかのオーケストラとあまりいい別れ方をしていないことを思い出した。しかしラストはオネゲルの交響曲第2番を思わせる「希望」の展開となりトランペットが出て、「その先」を暗示するように些か唐突に終わる。
演奏前の説明で「我々はどうしても作曲家を神様と見てしまう。それは間違い。作曲家も人間。作曲をすると色々な問題に突き当たる。作曲家のことが分かるし、鏡の中の自分を見られる。簡単に言えば非常に勉強になる」と話していた。
「死の舞踏」は上記インスタグラムに記した通り。
ハンガリー狂詩曲は弦の鳴りっぷりが麗々しくしかも透明。管楽器とのブレンド、各パートの役割分担も明瞭かつ鮮やかに決まっていた。聴きなれた名曲からフレッシュな質感を打ち出す、この指揮者らしい締めだった。
アンコールは「アリスのために」と「虹の彼方に(オーバーザレインボー)」。
「メモリーコンクリート」を書いてから15年、病気などを乗り越えた井上道義の音楽は大きく円熟し、その存在感は増している。「齋藤秀雄、渡邉暁雄よりジイサンになったなんて信じられない」仰っていたが加齢をプラスの作用に転換している稀有な指揮者としてますます輝くだろう。
※文中敬称略
井上道義(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団/ショスタコーヴィチ:交響曲第11番「1905年」
アリス=紗良・オット(ピアノ)/チャイコフスキー&リスト:ピアノ協奏曲第1番 リスト:コンソレーション第3番<生産限定盤>
アリス=紗良・オット(ピアノ)/リスト:超絶技巧練習曲集 ラ・カンパネッラ