ピアニスト阪田知樹については何度か取り上げている。
今回は2016年フランツ・リスト国際コンクール第1位の阪田が練りに練った3部構成のリスト尽くしのプログラム。
第1部は演奏機会の少ない4作品と自身のカデンツァを挿入したハンガリー狂詩曲第2番。冒頭のバラード第1番から自在に明暗の変化する澄んだ質感のタッチ、中間部のコミカルな部分の切り替えの妙を聴かせ、聴き手の心をひきつける。続いて「パガニーニによる超絶技巧練習曲」から2曲。後の「パガニーニの主題による大練習曲」の草稿的存在でより尖った要素が目立つ。阪田は弾力性のある解像度の高い展開により立ちはだかる難所を面白さとしてくっきり提示。単に珍品を弾いた次元を軽々と超え、「完成形」とひと味違うリストの荒々しいアイデアの息吹を伝えた。かつてこの作品を録音したニコライ・ペトロフに聴かせたかったと思う。締めのハンガリー狂詩曲第2番は流麗にして野趣漂う彫りの深い内容。自作のカデンツァもさじ加減が巧く「程よく驚かせてなおリストから遊離しない」佳品。
第2部のピアノ・ソナタは序盤やや硬い雰囲気だったが次第にしなやかできめ細やか、しかも厚みのある響きが拡がる。要の音形の処理が明瞭かつ強靭なので音楽の山と谷が的確に繋がり、論理的でありながら妖気の渦巻く要素も抱え、なかなかとらえづらい本作のピアノソナタとしての構築美を浮かび上がらせる。最後の一音の意味深かったこと。
第3部は「有名な方」の「ラ・カンパネッラ」に魅惑のトランスクリプション2曲。「アデライーデ」の清楚な高ぶりは胸にしみた。そしてリサイタルの白眉だったのが「ノルマ」。リストの仕掛けた音の動きを緻密に掴まえ、まばゆいほどの色彩の変化を脈動する中で織り込む。立ち昇るベルリーニとリストの美の饗宴にハッとさせられた。
客席は沸きに沸き(それでいて行儀はいい。このピアニストの公演は聴衆の質が高い)、アンコール4曲。ベートーヴェンのバガテルの玲瓏たる調べに阪田の計り知れない器を想う。その先へ、期待が一層膨らむ至福のひと時だった。
※文中敬称略※