特殊なものだけ見て全体をイメイジする愚かしさ
市井やネットでしばしば見掛ける声として「クラシック音楽のコンサートは値段が高い」というものがある。もし面と向かって言われた場合、相手になぜそう思うか尋ねるのだが、すると返ってくる答えは大概こうだ。
「だってベルリンフィルとか、ウィーンフィルとか何万もするんでしょ」
ちょっと待ってもらいたい。海外の超一流のオーケストラの来日公演は東京で日々行われていたクラシック音楽コンサートとは別次元の数年に一度の特別イヴェントだ。他のジャンルの音楽で例えればサー・ポール・マッカートニーやマドンナの来日公演に相当するもの。まさかポップス、ロックのコンサートの値段を連想する時にこんな別格の超大物だけ取り上げて考えるひとはいないだろう。ところがクラシック音楽コンサートでは日常的なコンサートとはかけ離れた内容、値段のものがクローズアップされがちで、一般のひとはその「特殊性」に気付くことなく「クラシック音楽コンサート=高い」というイメイジを抱いている。
日常のクラシック音楽コンサートの値段は他ジャンルと大差なし
私はクラシック音楽以外にJ-POPとV系が好きでとりわけGLAYやA9(旧称Alice Nine)のライヴには20回以上参戦している。1回のチケット代は会場にもよるが大体5,000円から7,000円。
一方、日本を代表するオーケストラのNHK交響楽団の定期演奏会はS席8,800円、A席7,300円、B席5,700円。つまりJ-POPのトップアーティストとそう違わない。この値段はオペラなど特別大規模な作品をやる場合以外はいずれも世界トップクラスの指揮者である首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィなどが指揮する時も同じ。しかも大会場のJ-POPのライヴではアリーナの余程いい席を取らない限り、アーティストの細かい動きはオーロラヴィジョン越しにしか見えないが、クラシック音楽のコンサートの場合、「ソーシャルディスタンス」の中だがB席といってもアーティストは結構近い。オペラグラス持参なら女性奏者のドレスのほつれまで分かっちゃうほど。
※2020年11月現在多くのオーケストラは定期演奏会の中止もしくは様態の変更を余儀なくされている。参考として代替公演の料金表をあげておく。
多少編成の小さいオーケストラや若手主体の楽団はもっとリーズナブルだし、同じオーケストラでも郊外のホールで行う公演(神奈川県なら相模原など)なら1,000円ほど安く聴ける。
よくJ-POP・ROCKのインディーズバンドがライヴハウスで行ういわゆる対バンでは3,000円プラスドリンク代が相場だが、クラシック音楽でもインディーズアーティストは大体そのくらいの料金。
クラシック音楽のコンサートは原則ワンマン(ピアノなど器楽の企画系のコンサートではたまに対バンある)、通常ドリンクオーダーは求められないからコンサートの行き帰りもしくは休憩時間に好きなものを飲めばいい。
若いひとなら断然お得なクラシック音楽
そしてクラシック音楽コンサートの他のジャンルにはあまりない大きな特徴が学生(若年)割引。例えば東京都交響楽団の場合、25歳以下なら主催公演の1回券が半額。S席が4,000円未満となり、いわば対バン価格で最高ランクの席に座り、一流指揮者が振る演奏を楽しめる。他の在京オーケストラも割引や廉価な学生席など若い聴衆には何らかの特典がある。
クラシック音楽は高齢層が聴くイメイジあるが実際は若いひとにとって聴きやすい環境の整っている音楽ジャンル。事実に基づかない妙な「セレブ」イメイジに惑わされて敬遠せず、どんどん演奏会に足を向けて欲しい。
今回はオーケストラ中心に記したがピアノ、ヴァイオリン、声楽などのコンサートも料金事情はほぼ同じ。万単位なのはごく一部の外タレだけで普通は数千円。昼間なら国際コンクール入賞レヴェルのピアニストを1,000円で聴けるコンサートだってある。
オペラは確かに若干値が張るがそれでも日本の団体は1万円あれば楽しめるし、やはり学生割引で安く聴ける。また舞台演出を伴わない形の上演やダイジェスト公演もあり、これらはより低料金。
マナーの心配をするひとがいるがマスク着用の上、携帯はマナーモードにして拍手は周りに合わせればいいだけ(いま「ブラボー」は禁止)。服装も在京オーケストラなら極端な話、短パンにタンクトップ(男性)だって構わない。日頃聴く音楽と同じお金でちょっと違う体験をするのは楽しい時間。何せ100年単位で世界の人々に愛されてきた音楽だから。