アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

外山雄三の眼がギョロリ【朝比奈隆の「フィデリオ」余話】

2017年4月、1994年に朝比奈隆指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団が行ったベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」公演のライヴ録音(抜粋、11月29日・12月1日収録)が初めて発売された。実相寺昭雄が演出し、寺田農の語りを加えたセミステージ公演は当時賛否両論を呼び、客席ではブラボーとブーイングが交錯したという。語りの台本を書いたのは何と詩人、大岡信だった。

俵孝太郎氏はCD発売後、タワーレコードのフリーマガジン「intoxicate」のコラム「クラシックな人々」に本公演のエピソードを記している。

ケースの表と挿入ライナーの中面に共通して使われた、木之下晃のステージ全景写真で気づいた人がいるかどうか。指揮台上で椅子に座った朝比奈の右下方、チェロの前の平場に一人、オケに正対して椅子に座る背中が見える。実は外山雄三。当時体調を崩していた朝比奈に代わり外山がみっちり練習をつけたうえ、万一に備えて舞台上で待機したのだ。

当時のオケの事務局長・松原千代繁のライナーは、外山に謝辞を述べながら実情を伏せているし、初日を聴いた筆者の記憶と違う面もある。朝比奈はレオノーレの2番に続けてフィデリオ序曲を振って本編に入り、第2幕第2場の前にマーラー式にレオノーレ3番を置いた。終演後に単独でステージに登場してレオノーレ1番を振ったので、アンコールと思ったら2番、3番、フィデリオと続け、物凄い長時間・長尺演奏になった。(中略)

今回やっと抜粋にせよ陽の目を見たのを喜ぶとともに陽の目を見たのを喜ぶとともに、当時すでに実力指揮者だった外山の義侠的貢献を記して、讃えたい。(#128〔2017年6月号〕pp.58より)

外山雄三(1931-)が朝比奈隆の下振り役を「アルプス交響曲」などで担っていたのは有名だがまさかステージ上にまで。何とか映像で検証したいと朝比奈隆指揮、新日本フィルブラームス交響曲全集のDVD(映像監督実相寺昭雄)の特典映像「寺田農が語る実相寺昭雄監督と朝比奈隆先生の思い出」にちょこっと出てくる「フィデリオ」の映像に目をこらした。すると本当にいた!下手側からのカットで腰かける朝比奈の向こう側に外山雄三のギョロ眼が光っている!どんな気持ちで座っていたのだろう。外山は戦後日本の屈指の大作曲家・名指揮者であり、結構メディア露出のあるひとだがこういう話題を振られる機会は皆無。元気なうちに誰か聞いて欲しい。

ベートーヴェン「フィデリオ」の音楽

ブラームス:交響曲第4番,ピアノ協奏曲第2番+特典

ブルックナー:交響曲第4番(ハース版),第5番(ハース版)