アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

緻密なトレーニングと戦略のしたたかさ【平昌五輪日本選手団回顧】

取るべきひとが取れた

2月25日に閉幕したピョンチャンオリンピック日本選手団は過去最多の計13個(金4・銀5・銅4)のメダルを獲得した。競技・種目が以前より増えているとはいえ、まぎれもなく快挙。選手の皆様には心からの敬意と感謝を表したい。

メダル増の最大の要因はメダル獲得を期待された選手、チームが着実に獲得できたから。従来の日本選手団モーグル上村愛子氏、ソチオリンピックの髙梨沙羅選手のようにメダルに近いとされた選手が取れないケースがままあり、それが後から登場する選手のプレッシャーとなって一層伸び悩み、結局不本意なメダル獲得数に終わることがしばしばだった。しかし今回はフィギュアスケート羽生結弦選手、スピードスケートの小平奈緒選手や女子団体パシュートなど事前にメダル候補とされた選手、チームが本戦で自らのいいものを出し切ってきっちり獲得。髙梨沙羅選手も銅メダルを手にした。近年遅ればせながら日本でもメンタル面を含めたアプローチが普及し始めた。期待を集めた選手、チームが潰れずに結果を出せたのはその成果と推測する。

刷新が奏功したスピードスケート

長年冬季オリンピックの日本のメダル稼ぎ頭だったスピードスケートはソチ五輪でメダルゼロの屈辱にまみれた。そこでスケート強国オランダからヨハン・デ・ヴィットコーチを招き、緻密なデータに基づいた練習やトレーニングを行うと同時に選手の意識改革も図った。読売新聞の報道によれば合宿でケーキを食べている選手を見つけたデ・ヴィットコーチは厳しく叱責、他の選手まで集めて訓話したという。練習でも動画をチェックして「この動きが無駄だ」「速い選手のラップに合わせる」と常に高いレヴェルを求めた。一方で選手と同じ日本的なメニューの食事を一緒にとるなど「代表チームはファミリー」と一体性を重視する姿勢も示し、選手の心を掴んだ。女子の華々しい活躍は言うに及ばず、男子も入賞が増え、スピードスケートは文字通りのV字回復となった。

周到な戦略で1-2フィニッシュのフィギュアスケート男子シングル

2017年秋のケガを乗り越えてオリンピック連覇を果たした羽生結弦選手。本人の「人生をかけた」努力、ブライアン・オーサーコーチ率いるチームの戦略、徹底した情報管理が快挙に繋がった。決着後ハフポスト韓国の取材に対しオーサー氏は、羽生選手が今シーズンのフリープログラムに以前使った「SEIMEI」を選んだことについて「本人の決断」としつつ、「あれは審判から評判が良かった」と話した。オーサー氏は以前から審判との関係が良好で現在の採点システムにおいて点の出やすいやり方を熟知していることが知られている。羽生選手のプログラム選びにもそうしたオーサー氏の個人的情報網から得た要素が反映されたのは間違いない。ケガから復活がクローズアップされるが前々からの練り上げられた戦略の成果、いわば氷の外の戦いに勝てたからこその連覇。

銀メダルの宇野昌磨選手は羽生選手とは対照的に長年師事する樋口コーチの指導、振り付けの下でシーズン通じて大会の大小にとらわれず、自身の作品を仕上げる姿勢に徹し、オリンピックもその中のひとつと考えた結果、団体から個人のフリーまでずっと安定した演技を披露し続けた(代表権の絡んだ全日本選手権だけがそういう姿勢の通らなかったとみえ、プレッシャーを感じたと明かしている)。

それぞれのやり方を極めて表彰台に揃って上がった2人は素晴らしい。

東京出身のスポーツヒーロー出現の喜び

ピョンチャンオリンピックの日本の獲得メダルにあまり「予想外」は無かった。その中で今大会日本選手団最初のメダルとなった男子モーグル原大智選手の銅メダルにはビックリ。事前報道では別の選手の名前が取りざたされていたから。しかも嬉しかったのは原選手が東京都渋谷区出身ということ。東京都出身のスポーツヒーローは意外に少なく、例えばプロ野球を見ても墨田区出身の王貞治ホークス会長くらいしか浮かばない。2020年夏季五輪のホスト都市である東京都出身のスポーツヒーロー誕生はピョンチャンのメダルラッシュを2020年に繋げる最高の一歩となった。

平昌オリンピック 激闘の記録(読売新聞東京本社出版局)