国論理想提起型の中曾根氏に対して実利分配型の角さん。2人の分かれ道はやはりロッキード事件だった。中曾根氏はトライスターの何倍ものカネが動いた対潜哨戒機について請託を受けた疑いが濃厚、さらに事件発覚直後、アメリカ大使館に赴いて事件を「もみ消す」よう示唆したという文書まで存在するのに証人喚問で切り抜け、首相の座まで上りつめ、2018年3月現在も存命中。一方角さんは逮捕され、法廷闘争に後半生を費やし、「闇将軍」として日本政治に拭いがたい病理的影響を及ぼし、最後は廃人同然となった。
中曾根氏の巧みさは陣笠議員時代から白眼視されながらも活発に外遊し、それを帰国後に活発に発信することで自身を大きく見せたこと。「日本のキャンプデービッド」を見据えて日の出山荘を購入、整備したのは象徴的。存命中の政治家、中曾根康弘と向き合い、学問的分析眼を失わず、しかも負の面も含めて魅力ある中曾根像を描いた服部先生の筆力に敬服する。
2冊を通読すれば戦後政治の主流を概観できる。変な「入門書」を読むより立体的に戦後日本を捉えられる。