2017年度最後の「N響ザ・レジェンド」は中村紘子(1944-2016)特集。1980年1月16日、NHKホールでライヴ収録されたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番がメイン。指揮はキリル・コンドラシン(1914-1981)、最初で最後のN響客演だった。
Rachmaninov Piano Concerto No.3 - Kirill Kondrashin
中村紘子は少女時代、ヴァン・クライバーンの弾くこの曲のレコード(1958年カーネギーホールライヴ)を聴いて憧れ、いつか弾きたいと心に決めた。そしてレコードでクライバーンと共演していたのが他ならぬコンドラシン。従ってこの演奏に中村紘子は相当な気持ちを持って臨んだと推測する。事実、多少硬い質感ながら華やかで輝かしいサウンドが繰り広げられ、作品の醍醐味を存分に表現している。コンドラシンのサポートも行き届いた内容。
残りの時間は2009年のデビュー50周年記念演奏会の後半、ショパンのピアノ協奏曲第1番が流された。指揮は東京交響楽団のニューイヤーコンサートで度々共演した秋山和慶。
Chopin Piano Concerto No.1 Op.11 Hiroko Nakamura
力演のなかにまろやかさのある弾きっぷりは最良の意味で大人のショパン。秋山のガシっとメリハリの効いたバックとの響き合いが立派。
中村紘子は文章、座談の名手として知られた。生前各種レコード賞と殆ど無縁だった一方、文筆面では審査員視点からのドキュメンタリーエッセイ『チャイコフスキー・コンクール』が1989年度大宅壮一ノンフィクション賞に輝き、『ピアニストという蛮族がいる』は文藝春秋読者賞を受けた。こんなピアニストはもう出るまい。好き嫌いを超えて注目しちゃう格別のひとだった。
※文中敬称略