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文化・社会トピック切抜き帖

マイクの向こうの優しい口調【「鉄人」衣笠祥雄さん逝去】

2017年3月、衣笠祥雄さんはNHKのラジオ番組でこんなことを仰っていた。

私は自分が好きです。成功の第一条件は自分を好きになることです。自分で自分が好きにならないとひとに好かれることもありません。自分が嫌いな自分をひとに好きになれ、なんて理不尽ですよね(笑)。また自分を好きになると自分を保つモチベーションになります。好きでいられる自分でいようというわけです。

高めの声のよどみない語り口に歩きながら聞いていて思わず「うーん」と唸った 。

父がカープファンだったので衣笠さんは最も早く知った野球選手のひとり。それでもリアルタイムの記憶にあるのは現役晩年の姿、国民栄誉賞を受けた時のこと程度。TBS野球解説者のイメイジの方が圧倒的に強い。

「解説者衣笠祥雄」は打ち立てた不滅の金字塔に似合わず、穏やかで優しい話しぶりだった。厳しいことを言う時は必ず「申し訳ないけど」と言葉を添えた。真に頂点を極めたひとならではの自信に裏打ちされた謙虚さがあった。これは王貞治会長、稲尾和久さんあたりと共通する要素。

アーカイブ映像で見た音楽を聞きながら素振りする鬼気迫る姿と引退後の表情のコントラスト、衣笠さんという人間の大きさを象徴していると思う。

引退後にカープのユニフォームを着る機会はなく、その背景が色々取りざたされた。しかし正力松太郎賞国民栄誉賞野球殿堂入りと積み上げた実績にふさわしい栄誉を受け、また衣笠さんなりのスタイルで球界の発展に貢献し、総じて言えば幸せな野球人生だったはず。 

2018年4月19日、TBSチャンネルベイスターズ-ジャイアンツの試合で解説したのが衣笠さんの最後のテレビ出演。偶然見ていたがひどい嗄声だった。その前に見たNHK-BSプレミアム「アナザーストーリー」のカープ初優勝を取り上げたエピソードのインタビューVTRでも声が擦れており、心配になった。あれからわずか数日での訃報。本当に悲しく残念。R.I.P.

衣笠祥雄さんは2018年4月23日に71歳で逝去した。

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