アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

4/28【坂入健司郎指揮、東京ユヴェントス・フィルハーモニー第17回定期演奏会】

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昔、OEKでたくさん聴いたチェロのルトヴィート・カンタの風貌の変化(しなやかな組み立てと品格漂う木目調の音色は健在)に年月の経過を感じた。こちらも歳取った。#クラシック音楽 #コンサート #東京ユヴェントスフィルハーモニー #坂入健司郎 #ドヴォルザーク #チェロ協奏曲 #ベートーヴェン #交響曲第3番 #英雄 #ワーグナー #マイスタージンガー #第1幕前奏曲 #前奏曲 #凝っている #スピード感 #名人芸 #カンタ #ルドヴィートカンタ #パルテノン多摩 #2018年4月 #4月28日

〔曲目〕

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調作品104(ルトヴィート・カンタ〔vc.〕)

~休憩~

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」

9月に演奏予定のマーラー交響曲第8番への前奏曲的色合いが付与された重量級の名曲プログラム。弦は対向配置。

ワーグナーは速いテンポをとり、生き生きと進む。圧巻のスピード感のうちに中盤以降の対位法の妙までしっかりあぶり出すのは指揮者の読みの確かさと統率力。「あ、このメロディ《トリスタン》に似ている」(下記リンク動画3:45から)などちょっとした美を印象付けるのもこのコンビならでは。弦の澄んだ響き、ティンパニの音の深みが冴えた一方、金管はもうちょっとタフに鳴って欲しかった。

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ドヴォルザークはカンタのチェロに尽きる。前奏部を所々オーケストラと一緒に弾くいつものルーティンの後、きれいに伸びる独奏が登場。気品と潤いのある木目調の音色で美しい稜線を刻んでいく。歌い込む場合でも難所を越える時でも絶対にイヤらしい媚びやエグさを見せず、音楽はいつもしなやか。作品の素晴らしさを誠実に堂々と伝える最上の演奏に胸が熱くなった。坂入の指揮は独奏チェロの影で刻むところなどにおける配慮が行き届き、ソロを引き立てていた。ホルンとトランペットの不安定さが玉に瑕。

アンコールとしてバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のサラバンド

オーケストラ・アンサンブル金沢の首席チェロ奏者を約30年務めたカンタのチェロは学生時代から何度も聴き、その度に魅了された。2018年3月31日で定年退団したそうだが今後はソロ一本でますます活躍してもらいたい。

ベートーヴェンワーグナー同様の速いテンポ。弦のヴィヴラート控えめのスタイルでスロットル全開。そのなかで強弱、バランスなどを細かく動かし、作品に埋め込まれた凹凸、陰陽の面白さを聴き手に突き付ける。表現自体は完全に自身のものになっており、指揮者のインプット、練り上げ、アウトプットの図抜けた能力が分かる。フォルテの炸裂ぶり、打ち物の轟きは震撼もの。惜しいのは時々ふっと緊張が途切れること。グーッといって引き込まれた瞬間にオーケストラが「楽しい音」を発したり、わずかに呼吸がずれたり。第2楽章でちょっとだれる場面もあった。また第3楽章のホルンのトリオは少々疑問。個人的にはあれを「角笛風」「ワイルド」と受け入れることはできない。両端楽章が上記の特徴が音楽の充実にうまく繋がっていた。

コンサート全体としていくつか課題が見えたとはいえ「それっぽい」響きに甘んじない姿勢は好感が持てる。坂入の色々やりながら地に足のついた音楽が作れて、メインの旋律の後ろで動く要素を透かし彫るデリカシーも併せ持つ才気、オーケストラの弦を中心にした機敏で凝集力のあるアンサンブルは驚異。聴く楽しみの拡がるコンビだ。

※文中敬称略

坂入健司郎(指揮) 東京ユヴェントス・フィルハーモニー/マーラー:交響曲第3番ニ短調