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文化・社会トピック切抜き帖

My Favorite Things Special【ドラマ「刑事コロンボ」ベスト10②】

以下の記事の続き。※一部ネタばれあり※

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第7位:構想の死角(第3話・第1シーズン第1話)

脚本:スティーブン・ボチコ

監督:スティーブン・スピルバーグ

犯人役ゲスト:ジャック・キャシディ

刑事コロンボの生みの親、リチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクはともにエラリー・クイーンの信奉者だった。クイーンの代表的プロットと言えばダイイングメッセイジ。このツールは最後の解決まで読者の興味を引き付けられる反面、ネタが割れると陳腐化し、作品の現実からの遊離を印象付けてしまうリスクもある。

2人が刑事コロンボのシリーズ放送開始に際し、最もインパクトがあると考えて第1話に選んだ「構想の死角」の決め手は被害者が殺人の遥か以前に残していた変形ダイイングメッセイジ。しかも被害者と加害者は2人組のミステリ作家、そして被害者自身が殺される前にそれを思い出すシーンすらあるという念の入れよう。1980年代にプロデューサーとして名をはせたスティーブン・ボチコ(2018年死去)の緻密な脚本に後の大監督スピルバーグの明と暗、引きとアップのコントラストを強調したメリハリの鋭い演出がうまくかみ合い、何度も見られるレヴェルのエピソードに仕上げた。スピルバーグは後年のインタビューで脚本の質の高さを絶賛している。当時キャメラを動かす直感的才能は認められていたが「テクニックだけで役者を演出できない」と揶揄される状況だったスピルバーグ。本エピソードでフォークや犯人役のジャック・キャシディなど舞台経験のある俳優たちを見事に色付けし、評価が高まるきっかけとなった。

なお刑事コロンボでストレートにダイイングメッセイジを取り入れた作品が登場するのは旧シリーズ第7シーズンの「死者のメッセージ」。こちらは犯人アピゲイル・ミッチェル(やはりミステリ作家でクリスティがモデルだろう)の個性、演じたルース・ゴードンの魅力で全体を包むことにより、解決のみが浮かび上がるのを抑えた佳作。

第10位:魔術師の幻想(第36話・第5シーズン第5話)

脚本:マイケル・スローン

監督:ハーベイ・ハート

犯人役ゲスト:ジャック・キャシディ

子供の頃、「金曜ロードショー」で見た作品。舞台上でコロンボの挑戦を受けるジャック・キャシディ演じるサンティーニの姿は当時強く心に残った。決め手の小粒さは惜しいが忘れがたい1本。

レヴィンソンとリンクにはマジック好きの共通点もあった。このエピソードが制作された頃、もう2人は刑事コロンボの現場から離れていたとはいえ、マジックが題材のエピソードの登場はある意味当然と言えた。刑事コロンボの持つリッチな雰囲気にも合致するし。作中でサンティーニが披露するマジックは実際のトップマジシャン、マーク・ウィルソン(1929-)が振り付けた。ウィルソンはテレビを通じてお茶の間にマジックを届けた草分けのようだ。

www.markwilsonmagic.com

youtu.be

 被害者役ネハミア・パーソフはユダヤ人の名優。彼が出演した映画「さすらいの航海」は大国間の思惑に翻弄されるユダヤ人難民を描いた作品だがフェイ・ダナウェイ、ジュリー・ハリスなど刑事コロンボ関係者が多数出演している。

他にも本エピソードは「FBI捜査官マンクーゾ」のロバート・ロジア(クラブのマネージャー役)、後年NBCのドラマで人気者となったシンシア・サイクス(サンティーニの娘デラ役)、フォークの旧友でマーロン・ブランドとも共演した(映画「ドン・ファン」)ボブ・デシィ(ウィルソン刑事役)といった脇を固める俳優たちの好演が光る。

〔参考文献・リンク〕

「序章」と①を参照。

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