ドホナーニは各パートを徹底的に薄く研いでメスの刃に仕立て、スコアを開腹手術する。分析とか治療よりとにかく見せる行為にパッションを燃やし、開けた結果は調整せずにガチで突きつける。このアプローチが面白い結果を生んだレパートリーはメンデルスゾーン、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、バルトーク、近現代。消化して表現できたオーケストラはクリーヴランド管弦楽団とウィーンフィルハーモニー管弦楽団。本来後者は「円運動」志向の楽団なのでドホナーニの美学(?)と対立するが、それまでも人体組織の中に織り込んで孕ませる指揮者の判定勝ち。
もしドホナーニ指揮、クリーヴランド管弦楽団の「指環」全曲録音(演奏会形式上演を行った後にセッションを組んだ)が完成していたら朝比奈隆のそれと並び立つ、音楽的には対極のユニークな1組になっていた。「ジークフリート」「神々の黄昏」の演奏会形式上演自体は予定通り行われたのか。ライヴ録音が存在するならどのレーベルでも良いから出して欲しい。
ストラヴィンスキー:バレエ≪ペトルーシュカ≫ バルトーク:バレエ≪中国の不思議な役人≫/ドホナーニ指揮、ウィーンフィル
R. Strauss: Salome/ドホナーニ(指揮) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ショスタコーヴィチ: 交響曲第10番; ルトスワフスキ: 葬送音楽/クリーヴランド管弦楽団 クリストフ・フォン・ドホナーニ(指揮)
ベートーヴェン(マーラー編): 弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」; ブラームス(シェーンベルク編): ピアノ四重奏曲第1番 / クリストフ・フォン・ドホナーニ, ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団