2003年日本音楽コンクール第1位に輝き、翌年メジャーデビューした鍵冨弦太郎。小澤征爾や秋山和慶から絶賛された瑞々しくスピード感のある音楽作りは聴き手の心をつかみ、将来の大器と目された。
一時のブームを経て2010年以降は華々しいソリスト活動より室内楽に軸足を置き、自ら結成したレスパス弦楽四重奏団のコンサート活動や現代音楽コンサートシリーズ「Point de Vue」への出演などで地道に音楽性を深めてきた。
そして2019年7月、久々にソロアルバムをリリースする。2018年9月に狛江で行われたリサイタルのプログラム(ショーソン:詩曲/プーランク:ヴァイオリン・ソナタ/鈴木輝昭:スピリチュエルⅢ)にフランクのヴァイオリン・ソナタを加えた。ピアノは沼沢淑音。
かつてと比べて格段に音自体の強靭さや艶が増し、響きの稜線の起伏が大きい。元々フランス系の曲目に適性を示していた奏者なので今回の選曲は大成功。特にショーソンの神秘と官能美、フランクのエネルギーの凝縮されたサウンドは聴く者の胸をつかむ。色彩の明暗が鮮やかなピアノのサポートも見事。全編通じてヴァイオリンを聴く喜びが一杯に詰まった好盤だ。
雌伏の時を経て新たな境地に上った鍵冨弦太郎の更なる飛躍が楽しみになった。