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文化・社会トピック切抜き帖

渋野日向子選手2019全英女子オープン優勝【日本人のメジャー優勝の近道は巡り合わせと運】

1986年全英オープン中嶋常幸選手は第3ラウンドを終えて首位と1打差につけ、グレッグ・ノーマンとの最終組で最終ラウンドを迎えた。当日の朝、解説者の戸張捷氏は中嶋選手からセーターを着てスタートするか、脱いでいくか相談されたという。その言葉にのしかかる大きなプレッシャーを戸張氏は感じた。

セーター着用で臨んだ1番ホール(パー4)、3打目を寄せきれず、パーパットを外すと「お先に」と打った約50センチのボギーパットも入れらず、まさかのダブルボギー。結局そこから沈んでしまい77(7オーバー)を叩き、8位タイに終わった。

2019年全英女子オープン、2打差の首位で最終ラウンドをスタートした渋野日向子選手が3番ホールで4パットのダブルボギーを喫したとき、嫌な記憶が頭によぎった。ところが渋野選手はその後の4ホールで2バーディを奪い、態勢の立て直しに成功して折り返すとセカンドナインは着実にスコアを伸ばし、最終18番ホールのバーディで見事優勝。今年メジャー2勝のコ・ジンヨン、過去のメジャー覇者のパク・サンヒョンやモーガン・プレッセルを72ホール目で突き放す圧巻の内容だった。終始笑顔でテンポよくプレー、時折食べ物を頬張る姿は現地のギャラリーの心を掴んだ。

渋野選手は海外の試合初挑戦。海外渡航自体2回目だという。実は2013年にチャンピオンズツアーのメジャーの全米シニアプロゴルフ選手権を制した井戸木鴻樹選手も初めての海外試合、それまでの渡米も1度ハワイに行ったのみだった。2人の快挙からひとつの可能性が思い浮かぶ。

21世紀に入る頃から海外の環境での積み重ねがメジャー優勝への道と言われた。つまり米ツアーに腰を据え、厳しいコースセッティングや様々な状況に対する適合性を高めてこそ、メジャーが見えてくるという考え。実際そのスタンスで福嶋晃子選手、丸山茂樹選手、宮里藍選手などが米ツアーに勇躍、優勝を重ね、メジャーにも挑んでいった。

しかし彼らはメジャー優勝に手が届かず、それどころかみんな最後はボロボロになって引退へと事実上追いやられた。
逆にメジャーで勝った井戸木鴻樹選手、渋野日向子選手は先述の通り、いずれも海外の試合出場自体が初めてだった。
ガチンコの実力勝負を挑み続けて疲弊していく選手より、運よく自身に合ったコースで行われるメジャーに巡り合った時にポンと良いものを出せた選手の方が勝利に近づける・・・渋野選手の笑顔を見ながらそんなことを考えた。

それにしても1977年の全米女子プロゴルフ選手権の樋口久子氏以来、42年間男女通じてレギュラーツアーの日本人メジャーチャンピオンが出なかったのは恥ずかしい話。次が42年後にならないために選手、関係団体が一体で広い視野を養い、日本のゴルフの競技力向上を図り続けることが必須だ。