あけましておめでとうございます。昨年もたくさんの方々に御覧頂き、ありがとうございました。少しでもクラシック音楽をはじめとする文化全般について皆さんの想像を喚起する発信ができればと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。
さて2021年(令和3年)最初のテーマはタイトル通り2020年(令和2年)リリースされたクラシック音楽のCDから私の選んだベスト10を御紹介(順不同)。
- 若杉弘指揮、NHK交響楽団/ブルックナー:交響曲全集(Altus)
- 尾高忠明指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団/ブルックナー:交響曲第3番(フォンテック)
- 外山雄三指揮、大阪交響楽団/チャイコフスキー交響曲第4番~第6番ほか(キングインターナショナル)
- ハインツ・レーグナー指揮、ベルリン放送交響楽団/シューベルト:交響曲選集(weitbrick)
- バレンボイム(ピアノと指揮)、ムター(ヴァイオリン)、マ(チェロ)、ウェストイースタンディヴァンオーケストラ/ベートーヴェン:三重協奏曲、交響曲第7番(ユニバーサルミュージック)
- 佐藤晴真(チェロ)、大伏啓太(ピアノ)/ブラームス:チェロソナタ集ほか(ユニバーサルミュージック)
- 阪田知樹(ピアノ)/イリュージョンズ(キングインターナショナル)
- イヴァン・モラヴェッツ(ピアノ)/ポートレート〔生誕90年記念DVDつき録音選集〕(スプラフォン)
- 岡田博美(ピアノ)/ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲、シューマン:子供の情景、クライスレリアーナ(カメラータトウキョウ)
- 會田瑞樹(ヴィブラフォン)/いつか聞いたうた ヴィブラフォンで奏でる日本の叙情(スリージェルズ)
若杉弘指揮、NHK交響楽団/ブルックナー:交響曲全集(Altus)
1996年~1998年、サントリーホールでのライヴ録音。ブルックナー没後100年、NHK交響楽団創立70周年、サントリーホール開館10周年を記念した一大プロジェクト「ブルックナーとメシアン」はリハーサルからサントリーホールで行うという破格の体制が敷かれ、演奏会は全てFM生中継、ブルックナーはBMGが全曲ライヴ録音の上でCD化すると告知された。しかし演奏会は全て予定通り完走したがCDリリースは第7番と第3番のみで途絶、生中継もいつの間にか消えた。この話は2017年に一度ブログで取り上げている。
プロジェクトから約四半世紀、若杉弘の逝去から10年以上が経った2020年にAltusがNHK所蔵音源を使って全曲ボックスでCDリリースすると聴いて驚きと喜びに包まれた。演奏内容の充実ぶりは言うまでもなく、透明でシャープな輪郭の響きを基調に核心となるリズム、音形を明晰に掘り起こし、音楽の凹凸をがっしりとつないだ好演ばかり。とりわけ1番、2番、4番、8番、9番は数多い同曲異演録音の中でも上位に位置する。しかも池田卓夫氏、坂入健司郎氏などによる充実した解説書付き。坂入氏の譜例に依拠することなく、楽曲の特徴と演奏上の処理を相互連関させた文章は今までの国内盤CDの解説とは次元の異なる読み応えで極論すればこの解説のためにCD買ってもいい水準。
いま日本のオーケストラは外タレを思うように呼べず、チケット販売にも制約があるなか飛車角落ちみたいな演奏会を続けている。こうした状況による収入減を少しでも補うためには過去の音源の現金化にもっと真剣に取り組む必要がある。CD化か配信課金かはそれぞれの判断だがカネにならないリモート何とかで悦に入る暇と元気があるなら、どうやって自身の名前と蓄積をカネに換えるか考えることだ。
尾高忠明指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団/ブルックナー:交響曲第3番(フォンテック)
本アルバムについてはこちらのリンクにある拙稿を御覧下さい。
ブルックナー:交響曲 第3番 尾高忠明 指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団
外山雄三指揮、大阪交響楽団/チャイコフスキー交響曲第4番~第6番ほか(キングインターナショナル)
日本楽壇の重鎮にもかかわらずいわゆる名曲のCDが殆どなかった外山雄三。昨年の後半にチャイコフスキーとベートーヴェンがリリースされて長年の渇きが癒された。下記リンクで若干まとまったレビューを書いている。
チャイコフスキー: 交響曲第6番「悲愴」 外山雄三(指揮) 大阪交響楽団
チャイコフスキー: 交響曲第5番 外山雄三(指揮) 大阪交響楽団
チャイコフスキー: 交響曲第4番 外山雄三(指揮) 大阪交響楽団
ハインツ・レーグナー指揮、ベルリン放送交響楽団/シューベルト:交響曲選集(weitbrick)
楽器の響かせ方、ブレンドの配合が面白い。ザックリした感触なのにスイスイ動く。刻む時はシャキシャキ、伸ばすところは硬質に立ち上がる弦の背後からシュっと管を透かし彫りする。単なる美麗路線ではなく澄んだ質感に落ちる影のインパクト。
シューベルト:交響曲第9番≪グレイト≫ ハインツ・レーグナー(指揮) ベルリン放送交響楽団
バレンボイム(ピアノと指揮)、ムター(ヴァイオリン)、マ(チェロ)、ウェストイースタンディヴァンオーケストラ/ベートーヴェン:三重協奏曲、交響曲第7番(ユニバーサルミュージック)
2022年に80歳を迎え、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに登板することが決まったバレンボイム。2020年5月には中断していたウィーンフィルの再スタートを探る試行演奏会の指揮をとった。80歳の記念と返礼の意味をこめたオーケストラからのプレゼントだろう。
アルバムのレビューはこちら。
ダニエル・バレンボイム(ピアノ、指揮) ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団 ベートーヴェン: 三重協奏曲、交響曲第7番
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 ディアベッリ変奏曲 [UHQCD x MQA-CD]<生産限定盤>
佐藤晴真(チェロ)、大伏啓太(ピアノ)/ブラームス:チェロソナタ集ほか(ユニバーサルミュージック)
このアルバムの素晴らしさについてはブログで紹介した。
The Senses ~ブラームス作品集~/佐藤晴真(チェロ) 大伏啓太(ピアノ)
阪田知樹(ピアノ)/イリュージョンズ(キングインターナショナル)
何度も本ブログに登場してきた若き名手。しなやかで光陰のコントラストの鮮やかなタッチ、解析力の高さに支えられた強靭な構築美は図抜けている。この時勢の中でも着実に演奏機会を得ているのがその証明。
イヴァン・モラヴェッツ(ピアノ)/ポートレート〔生誕90年記念DVDつき録音選集〕(スプラフォン)
師ミケランジェリのクリスタルタッチの影響を受けつつ、まろやかな温かみを加味した質感の響きは清澄かつ虹彩の変化が鮮やか。一度聴いたらハマる魅惑の世界。ちなみに阪田知樹は10代の頃、モラヴェッツの前でラヴェルを披露して絶賛された。
イヴァン・モラヴェツ - ポートレート [11CD+DVD]
岡田博美(ピアノ)/ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲、シューマン:子供の情景、クライスレリアーナ(カメラータトウキョウ)
真のテクニシャンとは何かを教えてくれる1枚。単に運動性能が高いのみならず、温かみ、陰影、余韻を透徹した構築の中に投影する。アプローチの瑞々しさと豊富な演奏経験から得られた奥行きがうまく融合した内容。
岡田博美(ピアノ) ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲
會田瑞樹(ヴィブラフォン)/いつか聞いたうた ヴィブラフォンで奏でる日本の叙情(スリージェルズ)
タイトルからイージーリスニング的なアルバムを連想したら平手打ちを食らう。下記リンクに記したレビューの通り各曲とも再創造もしくは新たに生み出された作品と申し上げた方が適切な緻密で鋭い色彩を宿す響きが聴き手の心を突く。ひとりひとりの魂にある音楽的原体験を問われた気持ちになる良い意味での問題作。
いつか聞いたうた ヴィブラフォンで奏でる日本の叙情 會田瑞樹
※文中一部敬称略