アメリカ国民の「民意」と中東の「現実」に基づく20年越しの決定
12月6日にアメリカのトランプ大統領はエルサレムをイスラエルの主張通り同国の首都と認め、アメリカの大使館を移転すると表明した。1995年、アメリカ議会は首都をエルサレムと認め、大使館を商都テルアビブからエルサレムに移すよう求める「エルサレム大使館法」を上下両院の圧倒的多数で可決している。しかし、歴代大統領はいわゆる中東和平プロセスに与える影響に配慮し、半年毎に施行延期手続きを取った。トランプ大統領も2017年6月には延期手続きを行っている。
再延期の期限である12月にトランプ大統領が法律に沿う決定を下した背景には2016年大統領選挙時の公約の履行、ユダヤ系の娘婿クシュナー氏の存在の他に中東の「現実」に対する冷徹な認識がある。歴代アメリカ大統領が約20年間「配慮」した結果どうなったか、現在中東和平プロセスは事実上崩壊状態、またアラブ諸国やパレスチナがアメリカを「イスラエル寄り」と見る構図も変わらない。つまり成果が上がらないどころか、むしろ状況は悪くなった。ビジネスマン出身のトランプ大統領から見れば結果に繋がらない「配慮」をアメリカ国民の民意に反してだらだら続けるなんて不合理だと考えたのだろう。事実アメリカの姿勢に関係なくイスラエルとパレスチナはエルサレムの帰属をめぐり対立し続け、暴動や衝突も日常茶飯事だから、アメリカがここでどう出ようが事態がさらに悪化するわけでもない。
またトランプ大統領は声明の中でイスラエルが主張し、「エルサレム大使館法」にも盛り込まれた「エルサレムは《永遠不可分》のイスラエルの首都」という文言にある「永遠不可分」は含めず、「イスラエルの主権が及ぶ範囲は当事者間の話し合いで決めること」とした。こう見るとトランプ大統領の決定は「民意」と「現実」を踏まえたアメリカ大統領としての冷静で合理的な判断だと言える。
水面下でイスラエル、サウジアラビア、エジプトは手を打っている
声明発表前、クシュナー氏はサウジアラビアを訪問してムハンマド皇太子に岳父トランプ大統領の意向を伝えた。クシュナー氏訪問後ムハンマド皇太子はパレスチナ自治政府のアッバス議長を呼び、アメリカの決定を伝えるとともにいわゆる「パレスチナ国家」に関してサウジアラビアの意向を受け入れるよう迫った。
サウジアラビアの斡旋案は
- エジプトからガザ地区に隣接するシナイ半島の一部(現在のパレスチナ自治政府が治めるヨルダン川西岸地域と同程度の面積)を割譲してもらい、そことガザ地区をパレスチナ国家の領土とする。
- 現在ヨルダン川西岸地域に暮らす人々の権利は守られ、エルサレムの東側にパレスチナ国家は名目上の首都を置ける。
というもの。これを受け入れなければサウジアラビアはアラブの盟主としてパレスチナを手助けできないとまで申し渡したという。「抵抗ゴロ」でカネを繋いできたパレスチナにとってサウジアラビアから「切られる」ことは致命的だから、アッバス議長は土気色になったらしい。
当然エジプトへの根回しは済んでおり、イスラエルからの理解も得られている模様。11月にイスラエルの軍高官がサウジアラビアの新聞のインタビューに応じ、掲載されるなど両国間は「共通の敵」イランを見据えて活発に意思疎通しているのだ。
このサウジアラビアの提案のエルサレムに関する考え方はトランプ大統領の声明とも矛盾せず、阿吽の呼吸で響き合っている印象すらある。トランプ大統領言うところの「当事者同士の話し合い」次第では新しい展開が開く可能性も出てくる。
反発や懸念を表明する国々が出るなか慎重に言葉を選んでコメントした日本政府は賢明。アラブ諸国は建前上反発するしかなく、欧州諸国は国内のイスラム教徒を考慮せざるを得ないが、日本にそんなしがらみはなく中東諸国との関係は良好な一方、サイバー攻撃対策でイスラエルとの連携は重要だから。
日本の識者やメディアはアラブ、パレスチナ側の「反発」ばかり書きたてる。特に「専門家」はアラブ諸国に入国できなくなると困るのでアラブ、パレスチナ寄りになりがち。ここは少し推移を見守ることが最善。騒げば「騒いで欲しいならず者」を喜ばせるだけ。