アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

3月10日【日本人が忘れてはならない日】

1945年(昭和20年)3月10日、東京大空襲

当時國學院大学で勉強していた祖父は夜が明けてから友人たちの安否を確かめるべく、都内を巡った。そこで見たものは「とても口にできない」ものだった。断片的に明かしてくれたのは空き地に並べられた焼け焦げの遺体を確認するひとの姿。服から何から焼かれている遺体にせめてもの情けとして、股間に布や石を置いているひとがいたこと。

祖父はよく言う。「戦争で苦労した人間として思うのは無責任なことを言ったり、やったりしてくれるな、ということ」。

news.biglobe.ne.jp

1995年3月10日、東京文化会館東京大空襲被災50周年 第5回東京都平和の日コンサート」
若杉弘指揮、東京都交響楽団、ジェラルド・ジャーヴィスコンサートマスター
ハイドン:交響曲第44番「悲しみ」
モーツァルト:レクイエム

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井上寿一/戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)

井上寿一/昭和の戦争 日記で読む戦前日本 (講談社現代新書)

保坂正康/帝都・東京が震えた日(中公文庫 昭和史の大河を往く)

東京大空襲 未公開写真は語る(新潮社)

期待も悲観もせず、結果が出るまでは静かに【南北・米朝首脳会談開催の見通し】

三浦瑠麗女史は2017年1月のトランプ大統領就任時から圧力をかけた上での米朝首脳会談の可能性に言及していたので驚く話ではない。2018年11月の中間選挙、さらにその先の再選を見据えてトランプ大統領は内政、外交両面で実績作りに前のめり。

金正恩氏が訪朝要請 トランプ氏受諾「5月までに会談する」 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

以下の5点を踏まえて当面は静観が妥当。

  1. 北朝鮮の言う「朝鮮半島の非核化」は常にアメリカが極東に展開している核抑止力を含んでいること。
  2. 内政外交問わず政治は結果とその検証があって初めて評価でき、次の段階に向かえる。従って言葉や単に会談が行われた事実だけで制裁解除などの行動には移れない。この認識を周辺国で共有する不断の努力が重要。
  3. 北朝鮮は韓国をオルグする形での統一が不動の国家目標であり、核開発を進めてきた理由の一つは「赤化統一」をアメリカに邪魔させないため。気掛かりなのは韓国大統領が北朝鮮に自国の体制を寄せていく動きをしていること。韓国と北朝鮮は元々「大国の被害者意識」を共有している。
  4. 米朝対話が行われた結果、何らかの合意が成立する可能性はある。しかしアメリカが北朝鮮の核保有を容認する可能性は低い。なぜならそれに踏み出せばイランの核開発も容認するという不信感がユダヤイスラエルに拡がる。今秋の中間選挙を控えてトランプ大統領が支持層の離反に繋がる事態を起こすとは考えにくい。
  5. 日本は自ら圧力と対話を両輪で押し進める。

日本の国会はいわゆる森友問題で騒がしい。公文書の改ざんが行われた、行政府が立法府に嘘をついた可能性がある事実は重大だが極東の外交、安全保障環境の厳しい状況、変化を考えれば森友問題はどこか別のところ、財務金融委員会もしくは国土交通委員会でやってもらいたい。

古川勝久/北朝鮮核の資金源 「国連捜査」秘録(新潮社)

手嶋龍一、佐藤優/独裁の宴 世界の歪みを読み解く(中公新書ラクレ)

日高義樹/米朝「偶発」戦争 孤立する日本の平和憲法

三浦瑠麗、猪瀬直樹/国民国家のリアリズム(角川新書)

三浦瑠麗/日本に絶望している人のための政治入門(電子書籍)

日本国憲法第9条改正は第2項削除以外なし【独立国のグローバルスタンダードに沿って】

自民党の安易さと「護憲」を唱える連中の滑稽さ

日本国憲法第9条にはこう記されている。

第9条日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

憲法条文・重要文書 | 日本国憲法の誕生国立公文書館リンク〕

条文の背景を考えると第1項は第二次世界大戦後の国際法における戦争違法化の流れを受けたもので、日本国憲法と同時期に制定された多くの国の憲法、例えばフランス、イタリア、中華人民共和国憲法には憲法第9条第1項とよく似た条項がある。またその後も同様の条項を憲法に盛り込んだ国は増えている。言うなれば第9条第1項は憲法の平和条項のグローバルスタンダードとして定着した中身であり、今後も堅持するのが妥当。

一方他国の憲法に見られない極めて特殊な条項である第2項の背景には、日本国憲法が敗戦後のGHQの占領下でGHQにより骨格が作られたことが他のどの条項よりも色濃く反映されている。GHQにしてみれば世界中の国を相手に戦争を引き起こし、現に占領しており、今後もずっと占領し続けるつもりの日本に戦力など必要ないし、交戦権なんてとんでもないという話で、その論理が憲法第9条第2項に明文化された。

当時の首相、幣原喜重郎氏は1946年2月のマッカーサーとの会談で「軍備を持たない平和などあり得ない」と主張したが、マッカーサーは「占領されている国に軍備は要らないだろう」と言い放ち、昭和天皇の身の安泰との関係を示唆しつつ「日本無害国」化の象徴として「軍備、交戦権なし」を迫った。幣原氏は昭和天皇の身にもしものことがあれば取り返しがつかないと考え、憲法第9条の骨格を受け入れた。その後、帝国議会での若干の修正(いわゆる芦田修正)を経て現在の憲法第9条となった。

しかし第2項の解釈は作り手自身によって早々と変容した。朝鮮戦争を受けてGHQの中心をなすアメリカは日本無害化のスタンスを捨て、日本を自由世界の一員に引き込む形での講和に乗り出し、日本に再軍備を求めた。当時の吉田茂首相は経済や国民感情から本格的再軍備要求をかわしつつ、警察予備隊を皮切りに講和、独立を挟んで少しずつ実力組織の規模を拡大し最終的に自衛隊に至った。つまり第2項はアメリカの思惑によって解釈、位置付けが変わり続け、日本政府はそれに応じて憲法解釈をいじくりまわして、安全保障環境の変化と対米関係に対応してきたのだ。

本来「太平洋戦争の論理」と長期占領が前提の第9条第2項は独立回復の段階で憲法改正により削除し、第1項の平和条項のもと、世界各国に倣った文民統制の組織作りを行い、国益や対米関係を自らの責任と覚悟をもって見極めて安全保障政策を決定し、軍隊を運用するのが当然だった。実際の日本は前述の通り、次々とごまかしの論理を編み出し、乗り換えながら対応する道を選んだので、組織面でも特異なものとなった。南スーダンPKOのいわゆる日報問題はこうした日本の防衛関係組織の歪みが表面化した事態。

もし憲法第9条の改正するなら当然、第2項削除で話を進めるのが当たり前。ところが自民党憲法第9条を巡る議論は国民投票へのビビりか、公明党への気遣いか、第2項はそのままで「自衛隊」を明文化するという内容で収斂しつつある。これでは憲法改正してまで別のごまかしに移るわけで何の解決にもならない。安易すぎる。

いわゆる「護憲」を唱える連中はもっと滑稽。この勢力は日本の外交姿勢を「アメリカ追随」と批判する連中とほぼ重なっている。仮に日本の外交が「アメリカ追随」だとするならば理由の一つは憲法第9条第2項にあるのだから、それを無くせば外交や安全保障政策の選択肢は広がり、「アメリカ追随」を脱却できるのに彼らは第2項を死守すると息巻いている。まともにものを考えていない証拠。

憲法改正を唱えるならこの「護憲」勢力の自己撞着を厳しく批判し、国民に第2稿削除とその後の国家ビジョンを明確に示して国民投票過半数を勝ち取る路線でいくことだ。

高村正彦/振り子を真ん中に (私の履歴書)

高村正彦+三浦瑠麗/国家の矛盾 (新潮新書)

猪瀬直樹+三浦瑠麗/国民国家のリアリズム (角川新書)

日高義樹/米朝密約 なぜいま憲法改正、核装備か

石破茂/日本を、取り戻す。憲法を、取り戻す。(PHP電子書籍)

【日米球春到来!】イチロー所属チーム決まる&精力的だった王会長

殿堂入り確実の大打者の新たな一歩

大リーグ通算3080安打(2017年シーズン終了まで)を誇るイチロー選手のシアトル・マリナーズ復帰が確実になった。44歳、打席での下半身の粘りやスピードの衰えは否めないものの守備、走塁面はまだまだ健在。目標の「50歳現役」の第一歩を踏み出せて良かったと思う。「イチ・メーター」のエイミーさんも喜んでいるようだ。

イチロー選手は2001年の大リーグデビューから2012年シーズン途中までマリナーズに在籍。首位打者盗塁王、10年連続200安打などの偉業を達成した。一方でイチロー選手在籍時期の後半にマリナーズは低迷、そのあおりで当時一部地元メディアから「イチローは個人成績優先の自己中心的選手で同僚から疎んじられている」という批判まで飛び出した。これは全く的外れなものだった。

もしイチロー選手が本当に「個人成績優先の自己中心的選手」なら絶対にWBC出場なんてしていない。というのもイチロー選手は毎年、キャンプ→オープン戦→3月から4月の公式戦までの時間を使い、ピッチャーの球を見ながらゆっくりその年の打撃フォームを作っていき、そして5月から本格的に打ち始める。従ってWBCの時期は本来調整の初期段階で本気で野球するなど「個人成績優先の自己中心的選手」なら断固拒否したいところだから。しかし実際のイチロー選手は率先して手をあげ、苦しみながらも節目の試合で効果的なヒットを放った。当然かなりのハイペースの調整をしたわけでシーズン後のインタビューで相当の「後遺症」があったことを明かしている。そうしたリスクを承知で日本の野球、日本代表チームのために立ち上がったのだ。

また「イチローはわがままで(マリナーズで)1番から3番への打順変更を拒否した」としばしば書かれたが、本当かどうか怪しい話。なぜならオリックス時代の1995年のシーズン後半にイチロー選手は仰木監督の要請に応じ、3番を打つことを承諾、2006年WBCの時も大島康徳打撃コーチの求めに応じ、途中から3番に座ったから。ちゃんとした人間が筋を通して話せばチームのために動く、それがイチロー選手。

当時メディアにおかしなことを言ったマリナーズの選手は、自らが試合に向けてイチロー選手ほどきちんとした準備をしていなかったのでイチロー選手に対して「ひとりだけいいカッコしあがって」というそれこそ身勝手なジェラシーを抱いたのだろう。往々にしてメディアは外様(この場合イチロー選手)に冷たく身内(アメリカ人選手)に甘いもの。日本でもタイガース、ドラゴンズでまま見られることだ。

今回、イチロー選手のマリナーズ復帰に関しての受け止めは概ね好意的と伝えられる。近年少しずつチーム状態は好転しているマリナーズイチロー選手とともにポストシーズン進出を果たして欲しいもの。

燃え続ける野球への情熱

2006年WBCの日本代表の監督を務め、イチロー選手から深い敬意を示された王貞治氏。現在77歳、ソフトバンクホークスの取締役会長兼GMとして忙しい日々を送っている。監督やコーチの立場に配慮してグラウンド上での指導には慎重姿勢だったが2018年のホークス秋季キャンプでは甲斐選手や上林選手を直接激励。さらに紅白戦では何と紅組のベンチ入り。2017年シーズンに頭角を現した甲斐、上林の両選手を選ぶあたりに王会長の「一層貪欲に」というホークスナイン全体に対するメッセイジを感じる。

普段のインタビューでは人当たりの柔らかい王会長だが「野球」「打撃」の4文字が絡んだ瞬間に眼の色が変わり、情熱漲る厳しい野球人に一変する。

www.hochi.co.jp

この眼。本当に野球が好きなんだと思う。

My Favorite Things:岡崎久彦+佐藤誠三郎『日本の失敗と成功』(扶桑社)

明治維新以降の日本の核心を凝縮

2018年(平成30年)は明治維新150年。大河ドラマをはじめ、幕末から明治維新の流れにまたスポットライトが当たっている。明治維新以降の日本は上昇と下降の振り幅の大きい歩みだった。明治、大正、昭和の内政、外交の分水嶺を振り返り、21世紀の日本と周辺の安全保障環境まで見渡した1冊が元駐タイ大使の岡崎久彦(1930-2014)と元政策研究大学院大学副学長の佐藤誠三郎(1932-1999)の対論、『日本の失敗と成功 近代160年の教訓』(扶桑社文庫;2003年)。

岡崎氏が晩年まで安倍晋三首相の外交安全保障の指南役を務めるなど旺盛に活動、著作も多かった一方、佐藤氏は北岡伸一氏、御厨貴氏、田中明彦氏の師匠格であり、筆鋒舌鋒ともに鋭い日本政治外交史の研究者だったが惜しいことに著作が少ない。従って佐藤氏が67歳で逝去する直前に岡崎氏との対論が実現し、その記録が遺されたのは幸いだった。

本書の読みどころは佐藤氏が対論の切れ目ごとに著したイントロダクション(問題提起)と同氏の透徹した視点に基づく箴言の数々。例えば対論の締め括り、21世紀を展望した章の問題提起はこう。

21世紀の国際関係の基本動向は、先進民主主義国間の協力関係の持続・強化が図られ、主要国間の大戦争は起こりにくくなった。しかし、産業化の普及とともに、産業化への離陸のできない国における不満の高まりから、宗教的原理主義の政治的急進化が不安定要因として挙げられる。また産業化の普及によって、エスニック・グループ間の対立の激化が懸念され、大量破壊兵器(特にミサイル)の移転によって、途上国間のパワーバランスに急激な変化が起こる危険性がある。

日本社会の変質としては、家族制度の解体によってアイデンティティがどのように変質していくかが懸念される。少子化高齢化の進展が予想され、否定されてきたエリート教育の復活がなるかが、今後の国家の発展を左右する。またこれまでの終身雇用の会社人間が、実力が問われる仕事人間に変化していくであろう。日本文化の新しい発展の可能性としては、欧米文化をより深く理解するとともに、インド、中国、その他の非欧米地域の文化への開かれた態度が不可欠となる。(pp.262)

前半は21世紀の最初15年で起きた出来事が的確に予見しているし、後半の段落では2018年現在の日本の課題、更なる成長、発展のために求められている事柄を指摘。

戦後日本(日本人)の先の大戦への向き合い方にも厳しい言葉を投げかける。

先の大戦で 命を落とした日本人に対して、戦後、犬死説が優位を占め、「悪かったのは日本」という自虐的態度が主流となった。またそれへの反発として、大東亜戦争肯定論が主張された。自国が危機に瀕しているとき、自国のために命を捧げるのは、その国に生まれ、その国の文化・伝統のなかで育ち、それらがアイデンティティの核となっている限り、そしてその国家の一員として利益を享受してきた以上、戦争目的がどうであろうと当然なことである。特に戦局が不利となったとき、一命を捧げて、国家や家族の危機に殉ずるというのは、人間として尊敬すべき態度である。この自明なことを無視し続けてきた点に、戦後日本の大きな問題がある。(pp.197)

過度に自虐的な姿勢を取る、反対に犠牲となった人々の尊さを強調したいがために戦争やその目的を賛美する、といった歪んだ姿勢を批判し、スマートな言葉で当たり前の国民国家の常識を説いている。 

そして歴史との付き合い方。

「歴史は繰り返す」と言いますが、人間はそう簡単に変わるものではありません。基本的には同じようなことを繰り返しているというのが、歴史を理解する上で、あるいは人間を理解する上で、基本的な考え方でしょう、そしてわれわれが忘れてはいけないのは、歴史のなかで考え行動している人たちは、その結果を知らないという点です。一方、われわれは結果が分かっています。優位な立場に立って、裁判官のような顔をしてバッサリ斬るというのは、傲慢さ以外の何物でもありません。自分自身、結果が分からない現在を、どう生きようとしているかを多少でも反省すれば、もっと謙虚になるのではないでしょうか。要するに歴史は鏡なのです。(pp.39)

つまるところ、歴史の理解は、その人の人間としての器量にかかってくるといえますね。細部に神が宿るのですから、歴史の細部に目配りをしながら 、大局を見る。そして自分と違う人間に接することで自己認識し、自我に目覚めるのと同様に、外国の歴史を謙虚に学ぶことで日本の特色が見えてくるわけです。その結果として、日本の現状と将来の方向性が明らかになってくるように思われます。(pp.41)

一般向け近現代史の概説書は世にあまたあるがここまで本質を抉り、読み手の下意識まで問うものはない。過去を鏡に現在、未来の日本についての認識を深められる一冊。

3/15締切【ミュージックバード企画:クリーヴランド管弦楽団の名盤アンケート】

衛星デジタル音楽放送チャンネル「ミュージックバード」は2018年5月、アメリカの名門オーケストラ、クリーヴランド管弦楽団の創立100周年記念と銘打ち、同年6月に行われる来日公演のPRも兼ね、特集番組でリスナーからのリクエストに基づいてクリーヴランド管弦楽団の名盤を放送する。いまインターネット上でアンケートを行っている。

docs.google.com

musicbird.jp

「ビッグ5」なんて言葉は過去のものだがクリーヴランド管弦楽団が今なおヨーロッパ調のきめ細かいアンサンブルを誇る名門であることは事実。往時をしのびつつ、改めてその真価を振り返るのも面白い。

My Favorite Things:『シャーロック・ホームズの冒険』【我が読書の原点】

10歳の誕生日プレゼントに母親から『シャーロック・ホームズの冒険』(サー・アーサー・コナン・ドイル著、久米元一/久米穣訳、講談社少年少女世界文学館)[※]をもらった。4編収録されていたが「ボスコム渓谷の謎」が当時一番刺さった。「警察が逮捕した人物の容疑を晴らす」筋書きが探偵小説らしく、苦い味が残るラストも素晴らしい。このシャーロック・ホームズから我が愛書遍歴は始まった。
※註が親切で今読んでも勉強になる。解説の日暮雅通氏は後年「青い鳥文庫」で全60篇を訳し、さらに光文社文庫の全60篇の翻訳も担当。児童向け、一般両方の文庫版ホームズの翻訳者を務めた珍しい人物。

年月を経てなおシャーロック・ホームズは人生の伴走者。