日本国憲法下で「日本国の象徴」「国民統合の象徴」となった昭和天皇。御巡幸、一般参賀、園遊会での和やかな表情やユーモアのにじむ言葉が国民に親しまれた。一方で昭和天皇の内面には戦前からの「君主」の残影が根強く残り、折々に顔を出した。昭和天皇が象徴したもの、それは憲法では割り切れない戦前と戦後の「陰の連続性」か。
あの時の君は若かった【1994年BPhヨーロッパ・コンサートの映像】
5月1日はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の創立記念日。1991年から毎年欧州統合推進のため、ヨーロッパの名所旧跡や由緒ある文化施設でヨーロッパ・コンサートを行っている。 こちらの映像は1994年、マイリンゲンでのライヴ収録。
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor" / Barenboim Abbado (1994 Movie Live)
バレンボイム、アッバードがまだまだ若々しいのはもちろん、入団したてのパユに至っては文字通り貴公子。ソリストの揺らしや抉りをゴリゴリきかせるピアノに呼応し、指揮者が各パートの織り成しを大切にする自身の基本は守りつつ、日頃と違うズドン、ビシンと重たいパンチの入る響きを展開。この反応力はアッバードの大きな特徴だった。
My Favorite Things:ルトヴィート・カンタのチェロ小品集【気高い輝きを放つ宝石箱】
選曲、配列、演奏内容、録音の全てが揃った至高の小品集。大人の音楽。このアルバムができたのはエイベックスが一時期クラシックに手を出してくれたおかげ。
サヴァリッシュとブロムシュテットの叙勲【旭日中綬章は低い!?】
「サヴァリッシュさんが日本に初めて来られたのは昭和39年のことだから、もう35年近く前になる。毎年来られてN響を指揮し、時には得意のピアノを弾いて楽員メンバーとクインテットを組んだりした。
サヴァリッシュさんの功績は極めて大きい。日本政府はそれに対して勲三等を贈ったが、この受章パーティーの時サントリーの佐治敬三さんが《なんで三等なのか?私には解せない》と怒ったが、私もまったく同感であった。
このことがあって、私もサヴァリッシュさんより上の勲章をもらうことはできないと思った。NHKの会長をやれば、まず勲二等である。それではサヴァリッシュさんに申し訳ないではないか。そこで私は、平成3年の会長就任の時、70歳にはなっていなかったが、先立って叙勲を辞退した。それぐらい、N響にとってウォルフガング・サヴァリッシュという存在は大きいと思う」(『会長は快調です!』川口幹夫著、東京新聞出版局、1999年;pp.193)
勲三等は旭日中綬章、勲二等は旭日重光章(栄典制度が変わり現在等級は廃止)。日本とゆかりのあるクラシック音楽家への叙勲は旭日中綬章が相場。例外は政財界にファンの多いリッカルド・ムーティ、旭日重光章だった。2018年春の叙勲でNHK交響楽団桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットは相場通りの旭日中綬章。今のNHK会長は何か思ったのだろうか。
ヴォルフガング・サヴァリッシュ(指揮) NHK交響楽団/ベートーヴェン生誕200年記念ツィクルス1970
ヴォルフガング・サヴァリッシュ(指揮)、NHK交響楽団/ブラームス:交響曲全集
4/28【坂入健司郎指揮、東京ユヴェントス・フィルハーモニー第17回定期演奏会】
〔曲目〕
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調作品104(ルトヴィート・カンタ〔vc.〕)
~休憩~
9月に演奏予定のマーラー交響曲第8番への前奏曲的色合いが付与された重量級の名曲プログラム。弦は対向配置。
ワーグナーは速いテンポをとり、生き生きと進む。圧巻のスピード感のうちに中盤以降の対位法の妙までしっかりあぶり出すのは指揮者の読みの確かさと統率力。「あ、このメロディ《トリスタン》に似ている」(下記リンク動画3:45から)などちょっとした美を印象付けるのもこのコンビならでは。弦の澄んだ響き、ティンパニの音の深みが冴えた一方、金管はもうちょっとタフに鳴って欲しかった。
ドヴォルザークはカンタのチェロに尽きる。前奏部を所々オーケストラと一緒に弾くいつものルーティンの後、きれいに伸びる独奏が登場。気品と潤いのある木目調の音色で美しい稜線を刻んでいく。歌い込む場合でも難所を越える時でも絶対にイヤらしい媚びやエグさを見せず、音楽はいつもしなやか。作品の素晴らしさを誠実に堂々と伝える最上の演奏に胸が熱くなった。坂入の指揮は独奏チェロの影で刻むところなどにおける配慮が行き届き、ソロを引き立てていた。ホルンとトランペットの不安定さが玉に瑕。
アンコールとしてバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のサラバンド。
オーケストラ・アンサンブル金沢の首席チェロ奏者を約30年務めたカンタのチェロは学生時代から何度も聴き、その度に魅了された。2018年3月31日で定年退団したそうだが今後はソロ一本でますます活躍してもらいたい。
ベートーヴェンはワーグナー同様の速いテンポ。弦のヴィヴラート控えめのスタイルでスロットル全開。そのなかで強弱、バランスなどを細かく動かし、作品に埋め込まれた凹凸、陰陽の面白さを聴き手に突き付ける。表現自体は完全に自身のものになっており、指揮者のインプット、練り上げ、アウトプットの図抜けた能力が分かる。フォルテの炸裂ぶり、打ち物の轟きは震撼もの。惜しいのは時々ふっと緊張が途切れること。グーッといって引き込まれた瞬間にオーケストラが「楽しい音」を発したり、わずかに呼吸がずれたり。第2楽章でちょっとだれる場面もあった。また第3楽章のホルンのトリオは少々疑問。個人的にはあれを「角笛風」「ワイルド」と受け入れることはできない。両端楽章が上記の特徴が音楽の充実にうまく繋がっていた。
コンサート全体としていくつか課題が見えたとはいえ「それっぽい」響きに甘んじない姿勢は好感が持てる。坂入の色々やりながら地に足のついた音楽が作れて、メインの旋律の後ろで動く要素を透かし彫るデリカシーも併せ持つ才気、オーケストラの弦を中心にした機敏で凝集力のあるアンサンブルは驚異。聴く楽しみの拡がるコンビだ。
※文中敬称略
二子玉川高島屋ヴェルテスパ【30年あまり通う店】
子供の頃から来ているレストラン。蛤のオーブン焼きアスパラガス付き、牛ロースのグリル八街直送野菜添え、ホワイトチョコレートのグリルと桜のアイスクリーム。かつてはめっちゃ美味しい❗と思ったがこちらの変化に伴い、今は普通だと感じる。でも安心して行けるお店。#ヴェルテスパ #二子玉川 #高島屋 #安心感
初めて来たのは5歳位の頃。38年の人生の大半で縁のあるカリフォルニア料理の店。だいぶメニューが刈り込まれたのが寂しい。
ピアニスト髙橋望のバッハ【ワクワクするデザインと演奏】
ピアニスト髙橋望のバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻。世界一美しい意匠のアルバム。ジャケット、レーベル面、全体の作り。いずれもファンタジック。プレリュードの陰陽、フーガの論理を1曲1曲違った色合いで語り、起伏と調和の兼ね備わる一編の音楽詩が浮かぶ演奏。レクチャーコンサートが好評の髙橋自身の解説も面白い。#バッハ #平均律 #平均律クラヴィーア曲集 #第1巻 #ピアノ #ピアニスト #クラシック音楽 #ジャケ買い #凝った作り #髙橋望 #高橋望
2014年から毎年、J.S.バッハのゴルトベルク変奏曲をコンサートで演奏してきたピアニスト髙橋望。2015年の演奏会はライヴ録音され、好評を博した。初めて東京文化会館小ホールを会場に選んだ2018年の第5回も満員の聴衆の下、大成功を収めた。choku-tn.hatenablog.comそして髙橋望はゴルトベルク変奏曲で培った心技体を糧に平均律クラヴィーア曲集の録音、演奏に挑むと決意。まず第1巻のセッション録音を行い、2018年4月にリリースした。上記の通り、正攻法でありつつ、翳や温もり、儚さといった多様な表情の浮かぶ響きを紡ぐ。ベーゼンドルファーの音色が心地いい距離感でとらえられた優秀録音。
※文中敬称略
髙橋望/J.S.バッハ: 「平均律クラヴィーア曲集」第1巻(全曲)
髙橋望/J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲
トリオ・ネーベンゾンネン/シューベルト、シベリウス
トロイメライ 髙橋望ピアノ・アルバム