指揮者・水野蒼生の率いるO.E.Tが7月20日に行うオール・ベートーヴェンプログラム。
プログラム前半は大井駿のピアノと指揮で
レオノーレ序曲第1番
ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲
が取り上げられる。
この2曲は音楽室にある肖像画や伝記からは分からないベートーヴェンの面白みが凝縮されている。
レオノーレ序曲第1番
ベートーヴェンは1805年にオペラ「レオノーレ」を書き上げて意気揚々と初演の舞台に掛けた。しかしあえなく失敗。翌年手を加えて再度舞台にかけて一応成功。そして1807年にはプラハでの上演話も出た。
このオペラに賭けていたベートーヴェンは各上演機会のためにオペラ本編に先立つ序曲を新しく作曲した。つまりレオノーレ序曲は3曲ある。
今回演奏されるレオノーレ序曲第1番は1807年のプラハ上演のために作られたが結局上演自体が実現せず、演奏されなかった。その後1813年からベートーヴェンは序曲を含むオペラ全体を書き改め、1814年に今もドイツ語圏で愛される名作オペラ「フィデリオ」が誕生した。
従ってレオノーレ序曲第1番は「レオノーレ」から「フィデリオ」に繋がるベートーヴェンの凝り性の軌跡にひっそりと咲く美しい花なのだ。ウキウキ、ワクワク感満載のオーケストラを聴く楽しさの詰まった作品。
ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲
「ジャジャジャーン」の交響曲第5番(いわゆる「運命」)、オーケストラ曲に声楽を取りこんだ交響曲第9番(「歓喜の歌」は後のEU賛歌に)・・・ベートーヴェンは間違いなくアイデアマン。
このピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲は1つでも舞台の主役になれる楽器を3つ集めてオーケストラと絡ませる大胆なアイデア。先述のオペラ「レオノーレ」と同時期に書かれたものでベートーヴェンのあふれる意欲がうかがえる。
なお後援者の貴族が弾くことを想定してピアノの楽譜は少し易しめにしたという挿話も。ベートーヴェンといえど「大人の事情」を無視はできなかったのだ。
それゆえ現代のピアノの腕に覚えのある指揮者なら、ピアノと指揮を兼ねた弾き振りが可能。これはビジュアル的にかなりカッコいい。今回の大井駿も才能の輝きをクールに見せ付けてくれるはず。
一方チェロの楽譜は楽器の可能性をフルに引き出した内容でプレイヤーの腕の見せどころが満載。https://youtu.be/6SoiYp1x9ro
2曲を聴くことでベートーヴェンって思わず身体の動いちゃう音楽だと気付ける。
O.E.Tが響かせるその瑞々しい息吹と緻密でしたたかな構成の妙にぜひ触れて欲しい。
※文中敬称略