さりげなくギクッとくる言葉が飛び出す。
「すべてのひとはいないと困るほどそれぞれに味のある存在だが、同時に、どんな人でもその人がいなければいないで世間はちゃんと動くのである。」(pp.97)
「自分の何もかもを知っていてくれ、覚えていてくれ、というのは、幼稚な甘えである。ほんの一か所、あなたに覚えていただければ、それだけで光栄です。そこであなたと繋がっています、と言えるだけでも、それは現世でありうべからざるほど貴重な幸福、幸運、光栄なのである。」(pp.70)
「表現というものは、精いっぱい胸のうちを言うことであるが、その場合にも一種のルール、身の構えはなければならない。できるだけむだなく、分かりやすいように、ということだ。(中略)難解な文章というのは、端的に文章力がない証拠なのである。その上、創作の態度としても思いあがっている。自分の書くものは、非常に優秀なものだから難解なのは当然で、読者の方で努力して理解することだ。理解しないのは、つまりそちらが悪いという態度になるからである。」
小説『無名碑』誕生までの取材過程のなかなかの壮絶さが面白い。