アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

My Favorite Things:岡崎久彦+佐藤誠三郎『日本の失敗と成功』(扶桑社)

明治維新以降の日本の核心を凝縮

2018年(平成30年)は明治維新150年。大河ドラマをはじめ、幕末から明治維新の流れにまたスポットライトが当たっている。明治維新以降の日本は上昇と下降の振り幅の大きい歩みだった。明治、大正、昭和の内政、外交の分水嶺を振り返り、21世紀の日本と周辺の安全保障環境まで見渡した1冊が元駐タイ大使の岡崎久彦(1930-2014)と元政策研究大学院大学副学長の佐藤誠三郎(1932-1999)の対論、『日本の失敗と成功 近代160年の教訓』(扶桑社文庫;2003年)。

岡崎氏が晩年まで安倍晋三首相の外交安全保障の指南役を務めるなど旺盛に活動、著作も多かった一方、佐藤氏は北岡伸一氏、御厨貴氏、田中明彦氏の師匠格であり、筆鋒舌鋒ともに鋭い日本政治外交史の研究者だったが惜しいことに著作が少ない。従って佐藤氏が67歳で逝去する直前に岡崎氏との対論が実現し、その記録が遺されたのは幸いだった。

本書の読みどころは佐藤氏が対論の切れ目ごとに著したイントロダクション(問題提起)と同氏の透徹した視点に基づく箴言の数々。例えば対論の締め括り、21世紀を展望した章の問題提起はこう。

21世紀の国際関係の基本動向は、先進民主主義国間の協力関係の持続・強化が図られ、主要国間の大戦争は起こりにくくなった。しかし、産業化の普及とともに、産業化への離陸のできない国における不満の高まりから、宗教的原理主義の政治的急進化が不安定要因として挙げられる。また産業化の普及によって、エスニック・グループ間の対立の激化が懸念され、大量破壊兵器(特にミサイル)の移転によって、途上国間のパワーバランスに急激な変化が起こる危険性がある。

日本社会の変質としては、家族制度の解体によってアイデンティティがどのように変質していくかが懸念される。少子化高齢化の進展が予想され、否定されてきたエリート教育の復活がなるかが、今後の国家の発展を左右する。またこれまでの終身雇用の会社人間が、実力が問われる仕事人間に変化していくであろう。日本文化の新しい発展の可能性としては、欧米文化をより深く理解するとともに、インド、中国、その他の非欧米地域の文化への開かれた態度が不可欠となる。(pp.262)

前半は21世紀の最初15年で起きた出来事が的確に予見しているし、後半の段落では2018年現在の日本の課題、更なる成長、発展のために求められている事柄を指摘。

戦後日本(日本人)の先の大戦への向き合い方にも厳しい言葉を投げかける。

先の大戦で 命を落とした日本人に対して、戦後、犬死説が優位を占め、「悪かったのは日本」という自虐的態度が主流となった。またそれへの反発として、大東亜戦争肯定論が主張された。自国が危機に瀕しているとき、自国のために命を捧げるのは、その国に生まれ、その国の文化・伝統のなかで育ち、それらがアイデンティティの核となっている限り、そしてその国家の一員として利益を享受してきた以上、戦争目的がどうであろうと当然なことである。特に戦局が不利となったとき、一命を捧げて、国家や家族の危機に殉ずるというのは、人間として尊敬すべき態度である。この自明なことを無視し続けてきた点に、戦後日本の大きな問題がある。(pp.197)

過度に自虐的な姿勢を取る、反対に犠牲となった人々の尊さを強調したいがために戦争やその目的を賛美する、といった歪んだ姿勢を批判し、スマートな言葉で当たり前の国民国家の常識を説いている。 

そして歴史との付き合い方。

「歴史は繰り返す」と言いますが、人間はそう簡単に変わるものではありません。基本的には同じようなことを繰り返しているというのが、歴史を理解する上で、あるいは人間を理解する上で、基本的な考え方でしょう、そしてわれわれが忘れてはいけないのは、歴史のなかで考え行動している人たちは、その結果を知らないという点です。一方、われわれは結果が分かっています。優位な立場に立って、裁判官のような顔をしてバッサリ斬るというのは、傲慢さ以外の何物でもありません。自分自身、結果が分からない現在を、どう生きようとしているかを多少でも反省すれば、もっと謙虚になるのではないでしょうか。要するに歴史は鏡なのです。(pp.39)

つまるところ、歴史の理解は、その人の人間としての器量にかかってくるといえますね。細部に神が宿るのですから、歴史の細部に目配りをしながら 、大局を見る。そして自分と違う人間に接することで自己認識し、自我に目覚めるのと同様に、外国の歴史を謙虚に学ぶことで日本の特色が見えてくるわけです。その結果として、日本の現状と将来の方向性が明らかになってくるように思われます。(pp.41)

一般向け近現代史の概説書は世にあまたあるがここまで本質を抉り、読み手の下意識まで問うものはない。過去を鏡に現在、未来の日本についての認識を深められる一冊。