黒田玲兎は作曲、ピアノ、ヴォーカル、空間演出の全てを手掛け、あふれる色彩と陰翳の交錯する音楽詩情世界を繰り広げるアーティスト。
約半年ぶりにライヴ(夜の部)へ足を運んだ。
《セットリスト》
-SE:Distance-
WANT
A loof flower
アイムソーリーアイムレイト
kandy
チョコレイトリップ
-impro-
夜に想う、二月
貴方の腕(かいな)が降りるとき(弾き語り)
yuutenji
Piano
Don't know 'bout wine
Rock'n'roll Rabbit
※アンコール※
三拍子のうた(弾き語り)
僕たちの合言葉
ピアノの放つ閃光から抉りのきいたヴォーカルが舞い上がるのが黒田玲兎の世界。そうした予定調和的思い込みは最初の2曲でするりとかわされた。あまり耳にしないナンバーをまろやかな質感の重心の低いピアノの上に線の太いヴォーカルがじっくりと響き合い、地に足の着いた音空間を構築していく。名刺代わりの曲「ウェザーニュース」でそのコンセプトはより明確になった。いったん曲を解きほぐし、一から組み上げており、通り一遍の答えを出さないメッセイジの面白さ、それが醸し出す余韻を丁寧に描く。
キーボードへ移って奏でるナンバーも以前のライヴで聴けた強い吸引力により空間と聞き手を否応なしに巻き込む雰囲気から、それぞれに滲み込むタッチの音楽でおのずからひとつの音空間が生まれるスタイルに転換していた。
それは決して持ち前の艶やエネルギーが薄らいだわけではなくより熟した、聴き手としなやかに響き合う良さ。improの煌めきを経ての3曲のたちこめる翳の濃さ、静々と聴き手を異世界へ誘う音詩のさざ波の魅力は素晴らしく、ラストからアンコールまでの温かな盛り上がりへと繋げた。またドラムスの上岡憲外が少し重めの押し引きで支えたのも今までと違った充実感に貢献した。
熟れた味わいを身につけたサウンドに黒田玲兎の深まりと挑戦心を垣間見た一夜だった。