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文化・社会トピック切抜き帖

【ディスクレビュー】ムーティ指揮、ウィーンフィル:ニューイヤー・コンサート2021

かつて石原愼太郎氏は環境庁長官時代に「新聞でボツになった記事が赤旗に載る」と発言し、産経新聞以外の全新聞社が記者会見をボイコットする事態に発展した。実際にそんなことがあるのかはともかく、下記レビューは当方がある媒体から依頼されて執筆したが「内容がネガティブすぎる」という理由でボツになったもの。お蔵入りは惜しいのでそのままブログ掲載する。

史上初の「無観客ニューイヤー」を成功させた「音楽性」と「ブランド力」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートは例年なら日本を含む世界各国から立ち見を交えて満席の聴衆が集い、世界90か国余りに生中継される、おそらく最も有名なクラシック音楽イヴェント。しかしリッカルド・ムーティ(1941年生まれ)を指揮台に迎えた2021年は時勢を考慮して無観客開催となった。

無観客で挙行した、できた大きな理由はチケットの売上がなくてもソニーとの契約に基づき、本稿で取り上げるソフトが販売され、確実に一定数が売れて収益が見込めるからだろう。いま配信やリモートで色々やっているアーティストは多い一方、それをどう収益に結び付けるかという点はまだまだ未開拓といえる。もちろんウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は長年継続している高い演奏水準としたたかな営業努力によりクラシック音楽界のトップブランドを築き上げた団体。従って他のアーティストは簡単に真似できないが、プロの演奏家や団体が活動する場合には収益に繋げることが大切だと改めて感じた。

さて演奏内容に話を移すと序盤は楽団員の表情や音楽の進みに硬さが拭えず、映像だと空っぽの楽友協会大ホールに少々戸惑ったのも事実。だがいわゆる第2部からオーケストラがほぐれて、適度な緊張のもとで優美に躍動するこの顔合わせらしい響きが展開する。またCDの場合、拍手がないため逆に集中できて聴きやすいのは思わぬ副産物だった。

そしてこの無観客公演の成功の立役者は指揮者のムーティ。堂々たる指揮ぶりは言うまでもないが曲ごとにうまく間をとり、好演した楽団員を起立させるなど極力普段通りやろうと努め、コンサートの雰囲気を見事に保った。音楽の果たす役割について真摯に語ったスピーチにも敬服した。

とはいえ聴衆の手拍子のない「ラデツキー行進曲」はやはり妙なもの。ダニエル・バレンボイムが指揮する2022年はホールが聴衆の温かい拍手に包まれることを祈るばかりだ。

ニューイヤー・コンサート2021

Blu-ray Disc ニューイヤー・コンサート2021

ニューイヤー・コンサート・コンプリート・ワークス

ニューイヤー・コンサート1989&1992

Blu-ray Disc カラヤンの遺産 ニューイヤー・コンサート1987

New Year's Concert 1987