アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

プレゼンターにも注目【オリンピック会場セレモニー&表彰式】

ピョンチャンオリンピック、2月18日のフィギュアスケート男子シングルの表彰式で羽生結弦宇野昌磨、ハビエル・フェルナンデスの各選手にメダルを授与したのは竹田恆和IOC委員(JOC会長)。

小平奈緒選手が金メダルを獲得した2月18日のスピードスケート女子500mの会場セレモニーのプレゼンターは平松純子・国際スケート連盟(ISU)理事。黎明期の日本フィギュアスケート女子シングルの選手で引退後は国内スケート界の要職を歴任するかたわら、ISUの審判員として活動してきた。

My Favorite Things【フィギュアスケートを彩るチャップリン。その自伝の面白さ】

チャップリンメロディはフィギュアスケート男子シングルの人気プログラム。すぐ思い出せるだけでも織田信成氏の2009-2010シーズンFS、ハビエル・フェルナンデス選手の2017-2018SP、田中刑事選手の2017-2018FSが挙げられる。

喜劇王」サー・チャールズ・チャップリン(1889-1977)は出演・監督映画の音楽を自ら作曲した。多くの場合、チャップリンがピアノで弾いたり、口ずさんだメロディを専門のアレンジャーが楽曲に仕立てたもの。街中に流れる音楽から当時の現代音楽まで貪欲に吸収したチャップリンの生み出した音楽、とりわけ映画「モダン・タイムス」のテーマ曲("スマイル")や映画「ライムライト」の主題歌(第45回アカデミー作曲賞受賞)は映画に直接なじみのない世代の人々の心もとらえている。

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チャップリンは晩年の1965年に自伝を書き上げた。日本語版タイトル「若き日々」はどん底の孤児から這い上がって映画界に入り、ハリウッドスターとなるまでの疾風怒濤の前半生、同「栄光と波瀾の日々」は功なり名を遂げたチャップリンの多彩な交遊関係とアメリカからスイスに逃れるまでを綴っている。「若き日々」が文句無しに面白い。人生ジェットコースター、漫画の主人公も裸足で逃げ出しそう。多少の誇張や記憶違いはあるだろうが、本当に自身で筆を執っただけあって迫真性たっぷり。ドキドキ、ワクワク、ハラハラに満ちている。「栄光と波瀾の日々」はチャップリンの「私のアルバム自慢」の趣でちょっとだれるが色々ありつつもこのひとは人間が好きだったのかなと思う。全盛期の共演者エドナ・パーヴィアンスへの敬意と愛情はほろりとする。

没後40年を迎えた2017年、この自伝の新訳が刊行された。フィギュアスケートチャップリンの音楽に出会った皆様、ぜひ一度「喜劇王」の人生を覗いて見て欲しい。

チャップリン自伝 若き日々 (新潮文庫)

チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々 (新潮文庫)

大野裕之/チャップリン 作品とその生涯 (中公文庫)

My Favorite Things:ヴィヴァルディ「冬」あれこれ【ストコフスキー、カラヤンetc.】

フィギュアスケート男子シングルの宇野昌磨選手は2017-2018シーズンのショートプログラムにヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」の「冬」を使用。ピョンチャンオリンピック団体戦個人戦の両方において100点超の好演を見せた。

www.sponichi.co.jp

そこで今回はあやからせてもらい「冬」のお気に入りをいくつか。

レオポルド・ストコフスキー指揮、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1966年録音)

ヒュー・ビーン〔ヴァイオリン〕、レイモンド・クラーク〔チェロ〕、チャールズ・スピンクス〔ハープシコード

「怪物」ストコフスキーが「四季」をどう料理するか、半ば怖いもの見たさだが意外に格調高い。ハープシコードをざわざわ蠢かすあたりは「ファンタジア」のひとだなあと不思議な感慨。オーケストラの響きがグアッと拡がる音質の録音のなか、ビーンのソロが強弱自在にして一本筋を通す。

レオポルド・ストコフスキー~The Complete Decca Recordings - Phase 4 Stereo<限定盤>

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1972年録音)

ミシェル・シュヴァルベ〔ヴァイオリン〕、エーベルハルト・フィンケ〔チェロ〕、ホルスト・ゲーベル〔ハープシコード

シュヴァルベの燻し銀の輝きを放つソロ以上に黄金時代のカラヤンベルリンフィルの聴き手の腹を揺さぶるサウンドのインパクトが大。鉄の規律と機動性を兼ね備えたアンサンブル、ブンブン唸る低音の迫力はこれぞモダン楽器。

ヘルベルト・フォン・カラヤン, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ヴィヴァルディ: 協奏曲集「四季」

カール・ミュンヒンガー指揮、シュトゥットガルト室内管弦楽団(1972年録音)

コンスタンティ・クルカ〔ヴァイオリン〕、イゴール・キプニス〔ハープシコード

キプニスのハープシコードが遊びまくる。「タリラリラン♪タリラリラン♪」と弦の刻みに合わせて楽しく合いの手。いちいち茶々を入れてくるひとのようで聴いていて笑ってしまう。クルカの独奏、ミュンヒンガー指揮のオーケストラはともにしなやかな清涼感のある音作りでうまくかみあっている。

コンスタンティ・クルカ(ヴァイオリン)、カール・ミュンヒンガー(指揮)、シュトゥットガルト室内管弦楽団/ヴィヴァルディ:協奏曲集《四季》

ズービン・メータ指揮、イスラエルフィルハーモニー管弦楽団(1982年ライヴ録音)

イツァーク・パールマン〔ヴァイオリン〕

パールマンの艶やかで朗々と伸びるソロの魅力。なお本盤はフェスティバルのライヴ録音で春夏秋冬それぞれ違うヴァイオリニストがソロを務める。スターン、ズッカーマン、ミンツ、パールマン

Huberman Festival 1982

Marieke Blankestijn〔ヴァイオリンと指揮〕、ヨーロッパ室内管弦楽団(1990年録音)

リチャード・レスター〔チェロ〕、ハロルド・レスター〔オルガン、ハープシコード

独奏、アンサンブルともに超辛口ドライジン。時折絡むオルガンの通奏低音もシンとした寒空に吹く北風の趣。音色が綺麗なだけになおさらビリビリ刺さってくる。

Blankestijn, Europe CO/Vivaldi:The Four Seasons

ヘルベルト・フォン・カラヤン〔指揮とハープシコード〕、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1987年ライヴ収録)

アンネ・ゾフィー・ムター〔ヴァイオリン〕

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ベルリンのフィルハーモニー室内楽ホールこけら落としコンサートの映像。ムターの引き締まった麗々しいソロをカラヤンの山と谷のかっちりついたバックが包む。1972年録音と同様鉄壁で強靭に鳴るオーケストラのアンサンブルだが質感は若干なだらか。死の2年前のカラヤン老いの中に雄々しく風格の滲む弾きぶり。向かい合わせにもう1人ハープシコード奏者を置き、カラヤンが両手で指揮する時は音を補う。

四季 カラヤン / ベルリン・フィル、ムター(1987) : ヴィヴァルディ(1678-1741) | HMV&BOOKS online - SVD46380

My Favorite Things:マルケヴィッチと日本フィル【知られざる絆】

イゴール・マルケヴィッチ(1912~1983)は日本の楽団と壮年期から晩年まで断続的に縁を保った指揮者。日本フィルからは名誉指揮者の称号を贈られ、死の二ヶ月前には耳の病気の影響でほぼ聴力を失った状態ながらNHK交響楽団東京都交響楽団に客演している。幸い彼の場合DVDとCDで日本での演奏をいくつか味わえる。

DVDは1968年に日本フィルを指揮した時のライヴ収録でストラヴィンスキー春の祭典とダフニスとクロエ第2組曲ブラームス交響曲第4番とラヴェルのラ・ヴァルス。モノクロながらまずまずの画質でストラヴィンスキーブラームスはステレオ音声。まず驚くは眼光の鋭さ。もう出てきたときから楽団員を突き刺す眼差し。これで見られたら誰だって真剣にやるだろう。日本フィルの楽団員は怖かったに違いない。そして演奏が始まると長めのバトンを用いてビシバシっと一点の曖昧さもない指揮ぶりに見ている側の背筋が思わず伸びる。日本フィルが懸命に喰らいつく。

特に圧倒されるのは「春の祭典」とブラームス。前者は1960年の初来日時に一大センセーションを巻き起こしたマルケヴィッチの十八番。ここでもアンサンブルをがっちり引き締めて克明なまでにリズムを刻み、徹底的に無駄を削ぎ落としながら、肉感的な迫力のある響きを展開している。ミスこそ散見されるものの音楽の歩みは確かで終わった後の聴衆の反応は熱狂的。一方のブラームスは全てを取り払った後になお残る作品の悲劇性をあからさまにしたような、厳しく強靭な響きに心震わされる。徹頭徹尾ハードボイルドな描き方は作品のイメージが変わってしまうほど。とりわけ4楽章のパッサカリアの執拗なまでの刻み込みは凄まじく、日本フィルが渾身の力演で応える。ちなみに両曲とも終わった後のマルケヴィッチの顔には笑みが。目もとも緩んでおりまるで別人。

ブラームス:交響曲第4番、ラヴェル:ラ・ヴァルス/マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団

CDでは最晩年に客演したNHK交響楽団との「悲愴」のライヴ録音があまりにも有名だが、ここでは1970年に日本フィルでセッション録音された音源(東芝EMI)を取り上げたい。曲目はデュカス「魔法使いの弟子」、プロコフィエフ:古典交響曲ラヴェル:ラ・ヴァルス、ファリャ「三角帽子」第2組曲で全盛期の至芸を安定した音質で楽しめる魅力的な一枚。とにかく感心するのは響きの色彩の鮮やかさと多様さ。聴きなれた曲が目の覚める輝きを放って生き生きと躍動。オーケストラのアンサンブルにも強烈な一体感があり、ラヴェルプロコフィエフではそれをはっきり実感できる。日本の楽団にこのアンサンブルをさせるには相当締めあげなければ無理だし、事実リハーサルは本当に厳しかったという。

マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団/魔法使いの弟子~管弦楽名曲集

「ディアギレフの最後の恋人」といわれたマルケヴィッチ。少年時代に「僕は永遠のものに興味があるのです」とディアギレフに語ったという。また「真の芸術家は賞賛されようとは思わない。妥協しないだけだ」という言葉も遺した。そんな音楽家が日本で度々壮絶な名演を展開した事実は興味深い。一体彼の胸中はどうだったのだろう。

マルケヴィッチ:日本フィルハーモニー交響楽団/ストラヴィンスキー:春の祭典、ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

マルケヴィッチ:NHK交響楽団/チャイコフスキー:交響曲 第6番「悲愴」、 ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」

マルケヴィッチ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団/マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』

マルケヴィッチ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団/チャイコフスキー: 交響曲第4番

My Favorite Things Special【「三大交響曲」猛打賞は誰だ!?】

夏場の氷代稼ぎコンサートでよく取り上げられるのが「三大交響曲」と言われるベートーヴェン交響曲第5番シューベルト交響曲第8(7)番「未完成」、ドヴォルザーク交響曲第9番新世界より」。

誰がこう呼び始めたかは不明だが読売日本交響楽団は「三大交響曲」コンサートを毎年夏に開催。私も一度尾高忠明の指揮で聴いた。指揮者にとって時代、様式の隔ったしかも超有名な3曲を1つの演奏会で取り上げて一定水準の演奏を成し遂げるのは結構大変だろう。

そこで今回は「三大交響曲」を巧く捌いた大指揮者は誰か、ランキング形式で考察する。

第1位オトマール・スウィトナー

ベートーヴェン/シュターツカペレ・ベルリン(DENON

シューベルト/シュターツカペレ・ベルリン(DENON

ドヴォルザーク/シュターツカペレ・ベルリン(キングレコード

NHK交響楽団名誉指揮者だったスウィトナー。3曲全て同じオーケストラでしかも割と近い時期に録音しており、演奏も素晴らしい。オーケストラの手厚く底光りする響きを生かしつつ、瑞々しい質感の音楽が展開されている。要所では結構ゴリゴリ押すもスッキリした後味ゆえ野暮ったくならない。録音状態も高水準。

ベートーヴェンシューベルトについてはNHK交響楽団との(後者のみシュターツカペレ・ベルリンとも)ライヴ録音も存在する。

第2位サー・コリン・デイヴィス 

ベートーヴェン/シュターツカペレ・ドレスデン(デッカ=フィリップス)

シューベルト/シュターツカペレ・ドレスデン(BMG・RCA

ドヴォルザーク/ロンドン交響楽団(LSO-Live)

ベートーヴェンシューベルトは演奏録音の両面で2曲の数多い録音中のトップクラスに位置する名盤。オーケストラのプラチナサウンドを尊重しながら骨格のがっしりした、それでいて細部の動きにしなやかさのある表現は飽きがこない。シューベルトの深い呼吸と時折垣間見えるほの暗さはインパクト大。

ドヴォルザークは余情排した正攻法で特別なことしなくてもこれは名曲だぞと教えてくれるよう。無粋なしなを作らないことでかえって音楽が宿す叙情味がじわりと浮かび上がる仕掛け。惜しいのは本拠地ホールの音響に起因する乾いた音質。このアラがむき出しになる状況で高水準の演奏し続けるロンドン響は大したもの。デイヴィスはフィリップスにコンセルトヘボウ管弦楽団との共演で7番から9番の交響曲を録音している。

第3位ロリン・マゼール

ベートーヴェン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ソニー

シューベルト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ソニー

ドヴォルザーク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(DGG)

マゼールの強みは3曲とも近い録音時期の音源かつウィーンフィルで聴けて、輸入盤セールのタイミングとらえると3曲(CD2枚)合わせて2,000円でおつり来ること。  

演奏自体シャープで音楽のうごめきを面白く見せてくれる内容。ベルリン放送響と録音した30歳代の録音に比べると若干角が取れたがウィーンフィルを音色、精度両面でフル回転させる統制力は破格。特にソニーのクラシックCD第1号だった来日公演ライヴのベートーヴェンシューベルトの価値が高い。

前述の通りマゼールは3曲を若い頃から録音、複数の音源がある。またドヴォルザークは2004年にニューヨーク・フィルハーモニックと北朝鮮公演を行った際に取り上げた。この模様はブルーレイで見られる。

第4位カール・ベーム

ベートーヴェン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(DGG)

シューベルト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(DGG)

ドヴォルザーク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(DGG)

同一レーベルでウィーンフィルの音源が揃うのはベーム

1977年ライヴのシューベルトの地の底から噴き上がる強靭なサウンドはこの指揮者の秘めたパッションが顕になった瞬間。ドヴォルザークも晩年のセッション録音ながら引き締まっており結構ホット。第2楽章の格調高い表情に深い寂寥感を通わせる手腕は流石。残念なのはベートーヴェンの平凡さ。音楽の筋は当然しっかりしているがもう一つピリッとしない。

ベートーヴェンシューベルトに関してはベームも複数の音源残した。前者の1977年東京ライヴ(Altus)は強い緊張感渦巻く演奏でセッション録音より聴き応えある。

第5位ペーター・マーク

ベートーヴェン/パドヴァ・デ・ヴェネト管弦楽団(ARTS)  

シューベルト/NHK交響楽団キングレコード

ドヴォルザーク/東京都交響楽団東武レコーディングス)

東京都交響楽団の定期招聘指揮者として日本の音楽ファンに親しまれたマーク。

モーツァルトメンデルスゾーンスペシャリストのイメイジが強く録音も殆ど2人の作品だったので晩年ベートーヴェン交響曲全集が録音できたのは幸いなこと。決して声は大きくないがちょっとした内声の協調やテンポの瞬間操作で聴き手に作品の持つエネルギーをじわじわ伝えてくる。時々編集ミスやらかすレーベルだがこの曲は大丈夫。

ヴァントの代役でたった一度NHK交響楽団に客演した時のシューベルトはマークの本領発揮とまではいっていないが、透明度の高い響きに淡い煌きがまたたくところなどやはりこの指揮者ならでは。優美な香りがたちこめる。

事実上の手兵だった都響とのドヴォルザークは絶好調。ゆったり目のテンポで大きい流れを形作りながら、リズム処理と緩急強弱軽重硬軟明暗の自在な出し入れにより響きの万華鏡が目の前に拡がる。音色の多彩さでここまで聴かせるドヴォルザークは稀有。都響の反応の良さも特筆もの。併録のワーグナーの『トリスタンとイゾルデ前奏曲と愛の死も破格。そんなに重くやってないのにずっしりくる音楽の厚み、澄んだ質感の上にはらむ胸締め付ける艶やかさというか妖気。音質が良いのも嬉しい限り。

第6位ブルーノ・ワルター

ベートーヴェン/コロンビア交響楽団ソニー

シューベルト/ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団(現、ニューヨーク・フィルハーモニック)(ソニー

ドヴォルザーク/コロンビア交響楽団ソニー

シューベルトはレコード時代から高い評価を得てきた一方、ベートーヴェンドヴォルザークはコロンビア交響楽団の弱さがしばしば指摘される。確かに常設の高機能オーケストラと比較すればアンサンブルの切り返しの速さ、響きの厚み、音色の美感の点でやや見劣りする。しかし老いた指揮者の音楽思想を形にすべく献身的に取り組んだ姿勢は大したものだし事実ワルターの指揮技術にある程度ついていっている。

ドヴォルザークには一見大人しい音楽の向こう側にマグマがふつふつたぎっている雰囲気が漂い、力強くもどこかやるせないムードを醸し出す。ベートーヴェンの冒頭「タタタターン」の最後かなり伸ばし一回一回間をとるスタイルは何度聴いてもちょっと不思議。両端楽章とも提示部の反復は省略。いずれの曲もワルターは複数の音源を残した。

第7位近衞秀磨

ベートーヴェン/読売日本交響楽団ナクソス

シューベルト/読売日本交響楽団ナクソス

ドヴォルザーク/読売日本交響楽団ナクソス

日本の洋楽受容史における最重要指揮者・作曲家のひとり近衞秀磨が遺した最晩年のセッション録音。若干乾いた音質ながら聴きやすいステレオ録音で日本が生んだ真の巨匠の音楽表現を検証できるのはありがたい。

ベートーヴェンは独自の改変の加えられた「近衞版」。木管を中心にかなりオリジナルと異なるサウンドが展開されるが表現自体はトスカニーニスタイルの正攻法。戦前世界各国でオファーあったことがうなずける。シューベルトもじっくり取り組まれ、ほの暗い音色を基調とする音楽は余韻が深い。もう少しオーケストラに絵の具あれば一層充実していたはず。

最も素晴らしいのはドヴォルザーク。速過ぎず遅すぎないテンポのもと緊張感ある運びの中でふくよかにたっぷり旋律を歌わせ、作品に込められた作曲者の多様な感情が汲み出されている。併録のスラヴ舞曲作品72-2も絶品。

余談だが近衞秀磨は名曲コンサートの定番ルロイ・アンダーソンを日本に紹介した指揮者でもある。日本コロンビアから発売のコンピレーションアルバムに4曲だけだが彼の振ったアンダーソンが収録されている。

第8位レオポルド・ストコフスキー

ベートーヴェン/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(デッカ)

シューベルト/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(デッカ)

ドヴォルザーク/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(BMG・RCA

約65年の指揮者人生を送った巨魁ストコフスキー(上述の近衞氏とも親交あった)。従って3曲とも多くの音源あるがここで挙げたのは晩年の録音。彼が熱心に取り組んだ「フェイズ4」形式で収録されており独特の音場感。

やりたい放題のイメイジの強いストコフスキーだがベートーヴェンシューベルトは反復の省略と指揮者の世代からくる慣習的改変以外は言ってみれば普通に演奏。速めのテンポで見通しの良い音楽。高齢指揮者にありがちなリズムの硬直もなく颯爽としてすらいる。

一方ドヴォルザークは常軌を逸した内容。緩急のギアチェンジがテンコ盛りで激しいところは猛ダッシュ、静かな箇所は纏綿と歌い込む。第1楽章の締めくくりにはホルンのトリルを追加、更にフィナーレのラストをボワーンと膨らませるという爆弾まで投下。この2つの仕掛けは何度聴いてもドッキリ。ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の献身的協力に拍手。

第9位ヴァーツラフ・ノイマン

ベートーヴェン/チェコフィルハーモニー管弦楽団〔1989年録音〕(スプラフォン)

シューベルト/チェコフィルハーモニー管弦楽団(スプラフォン)

ドヴォルザーク/チェコフィルハーモニー管弦楽団〔1993年ライヴ〕(DENON

ドヴォルザークは説明不要だろう。あえて付言するなら取り上げたライヴ録音は同曲同演奏者の異演に比べてピンと張りつめたものが感じられる。映像も存在し必見の出来。

ビロード革命」前後の時期にノイマンベートーヴェンを結構演奏、録音しており5番もその一つ。そろそろチェコ物以外がやりたくなったのだろうか。落ち着いたテンポを保ちつつ音楽には前へ進む勢いがあって鳴りっぷりもなかなか。ノイマン特有の人懐っこさと共にピシッとした感触が出ている。なお1969年来日時にもノイマンは同曲を録音。

遡ってアンチェル時代の1966年録音のシューベルトはきっちりした造形美が好印象。管弦の温かみとシャープさが溶け合った美音に当時のチェコフィルの充実度が覗える。

第10位朝比奈隆

ベートーヴェン/大阪フィルハーモニー交響楽団(エクストン〔SACDハイブリッド全集盤〕) 

シューベルト/東京都交響楽団(フォンテック)

ドヴォルザーク/大阪フィルハーモニー交響楽団ポニーキャニオン

ベートーヴェンは数多い音源のうち最晩年のチクルスの全集盤向け再編集版を選んだ。遅めのテンポで一貫するも割合すっきりした輪郭の響きに仕上げている。それでも他の指揮者と比べればかなりゴリゴリと押してくる内容で独特の音圧の強さは健在。優秀録音。

シューベルト阪神淡路大震災の直後に都響へ客演した時のライヴ収録。主旋律を後ろ髪ひかれるほど歌い尽くし、第1楽章の山場では怒涛の鳴らし込み。それでも都響ゆえか逸脱の一歩手前で踏み止まる。ちなみに併録のワーグナーパルジファル第1幕前奏曲聖金曜日の音楽)は音楽の山と谷を5倍位拡大し文字通り気宇壮大な響きが展開。通して聴くとお腹いっぱい。

毎年のニューイヤーコンサートのメインだったドヴォルザーク。こちらはお腹いっぱい通り越して胃もたれしちゃう濃さ。流石晩年まで肉食通したマエストロ。殆ど全てのフレーズにたっぷり感情のウェイト乗せて歌い込み、ズドンズドン鳴らしまくる。クレンペラーに感化されたか壮年期は省いていた第1楽章の提示部反復を励行。二重にくどい。フィナーレの終盤などストコフスキーさえ裸足で逃げ出しそうな大見得を切ってみせる。年に1度でたくさんだが不思議と年に1度は聴きたくなるCD。