アフターアワーズ

山椒系ちょくの切り抜き帖

福間洸太朗ピアノリサイタル@10/11サントリーホール

緊張から光彩陸離へ

2017年10月11日(水)サントリーホール19時開演

【プログラム】

リスト:オーベルマンの谷(巡礼の年第1年スイスより第6曲)

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番

-休憩-

ラフマニノフ:前奏曲op.3-2

ラフマニノフ:前奏曲op.32より第12番、第13番

スクリャービン:ピアノ・ソナタ第5番

ストラヴィンスキーアゴスティ編曲):火の鳥

~アンコール~

徳山美奈子:Flying Birds
ルイ・クロード・ダカン:クラヴサン曲集第1巻第3組曲から「カッコウ
ショパン:バラード第1番

鳳凰がみたもの~」と銘打たれたリサイタル。

冒頭のリストは音楽の流れ、タッチともに硬く、力の入ったフォルテはふわっと散ってしまい、弱音もかさかさ。サントリーホール(大)におけるピアノリサイタルの難しさを改めて感じた。

次のショパンになって奏者の持ち味のしなやかさが出始めて高音の冴え、鋭い低音の打ち込みで麗々しい響きが拡がる。

奏者の本領はバーテンダー風の衣装に着替えた後半のロシア物で発揮。

ラフマニノフのop.32からの2曲は滑らかに動く輝かしい高音が自在に旋律を歌うと、ほの暗い低音が音楽に奥行と陰影を与え、実に美しかった。スクリャービンも強靭なタッチで作品の骨格を明確に描きつつ、胸揺さぶるエネルギーが伝わる内容。またストラヴィンスキーは色彩の表出が巧みで編曲の密度の薄さをカバー。指捌きの忙しい場面でも叩き飛ばさず、鍵盤を掴んでしっかり響かせる技が見事だった。

福間洸太朗はしなやかで透明感のある高音に低音の抉りを交え、確かなリズムの脈動のもと潤いと立体感のある音楽が作れるピアニスト。中堅の実力者として今後ますます目が離せない。

火の鳥-~ロシア・ピアノ作品集

バラードの音魂~ショパン作品集

【曲目構成を思う】瀬﨑明日香ヴァイオリンリサイタル@10/9紀尾井ホール

9月26日のブログで取り上げた瀬﨑明日香のリサイタルに足を運んだ。

choku-tn.hatenablog.com

オールフルスロットルの難しさ

プログラムはモーツァルトのヴァイオリン・ソナタK.296とリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが前半、後半はラヴェルのツィガーヌとフランクのヴァイオリン・ソナタ。どれも名曲でしかも常に全開でいく必要のある作品を並べた。それゆえ全体に力みが目立ち、奏者本来の俊敏な運びや切り返す音の粒の美しさは影を潜めてしまい、やや聴き疲れした。最後のフランクで日ごろのしなやかさ、艶が戻って奏者の魅力を感じられたのは幸い。

10月初頭に天童で行ったリサイタルでは前半ラヴェルとフランク、後半クライスラーの名曲というプログラムを組んでおり、この方がペース配分しやすく奏者の持ち味が生きた気がする。

近年名だたるホールに進出した際に自身のやりたい名曲、大曲をドドンと並べる器楽奏者が結構いるが正直聴き手としてはプログラム見ただけで息苦しくなる。特に弦楽器の場合、何か1曲箸休めが欲しいところ。

瀬﨑はアンコールにシベリウスの小品op.81-1、ラヴェルのハバネラ形式の小品、クライスラーの美しきロスマリンを弾いた。メインの曲目に比べて肩の力が抜け、やわらかいタッチの音で色合いの変化豊かに聴かせた。

実力の確かな奏者でもプログラムによってはその良さが十分感じられないこともある、演奏会の難しさを再認識した。

なぜ「伊東」をやらないか【ジャイアンツ4位転落に思う】

2016年シーズンオフの怠慢のつけ

日本プロ野球ジャイアンツは11年ぶりのBクラスに終わり、セントラルリーグへのクライマックスシリーズ(以下CS)導入以来初めて進出を逃した。

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今シーズンは前半戦で球団史上ワーストの13連敗を喫してペナント争いから完全に脱落。後半やや巻き返してベイスターズとのCS進出争いを演じたが抜き切る勢いがなかった。

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若手の伸び悩みに伴う選手層の薄さ、主力野手の平均年齢の高さを指摘する声があがっているがそんなことは昨シーズンから分かっていたこと。とりわけ現場で戦った高橋由伸監督やコーチ陣は認識していたはず。本来なら昨年の秋、期待されながら殻を抜け出せない若手を集め、まだ若くて身体の動く高橋監督が先頭に立って叱咤、指導する秋季キャンプを行うのが当然だった。1979年オフに当時の長嶋茂雄監督が青田昇ウォーリー与那嶺杉下茂土井正三各コーチをまとめて中畑、篠塚、松本匡、江川、西本聖など18人を25日間にわたってしごきあげた「地獄の伊東キャンプ」は有名だが、今こそ「伊東」が求められたはず。


1979 地獄の伊東キャンプ 全貌

ところが高橋監督以下首脳陣は「伊東」をやるどころか、フロント主導の既成勢力かき集めの補強策で戦えると高を括った。これが今シーズンの苦戦と4位転落の最大の原因。補強策を推し進めたフロント側の責任者である堤GMは前述の13連敗後に辞任した。シーズンの結果が出た以上、漫然と補強策に胡坐をかいた現場の責任者、高橋監督が「現実を受け止めて」辞任するのが筋。もしこれで居座るなら高橋監督はジャイアンツの歴史上最も破廉恥な監督。また高橋由伸氏の監督就任を推し、球団取締役の地位にありながら「伊東」をやれと促さなかった長嶋茂雄氏にも疑問を感じる。

若い監督が老将面する滑稽さ

高橋監督は42歳と若く、選手時代の実績は輝かしいが現役晩年の兼任コーチ以外に指導者歴がない。そういう人物が監督してチームをまとめるには「一緒に野球をやろう」という姿勢で選手に接し、感情をある程度表に出すことが大事。

選手と一緒に汗を流し、笑い、泣き、喜び、怒る。若い選手のなかには子供の頃「高橋由伸選手」に憧れていたひとも多いだろうからそういう選手たちと積極的に話し、ともにウォーミングアップするとか、自ら打撃練習を見せるなどして距離を縮めるといった具合。野村克也氏のように理論で心服させることは不可能だから、身体を動かし、選手たちからの共感を得て求心力を高め、あとは結果で納得させるのが唯一の道なのだ。

ところが高橋監督はいつでも無表情でベンチにたたずむだけ。記者対応も淡泊。老将ならばムスっとしているのもひとつのスタイルでかえって凄味が出る場合もあるが、若い監督が訳知り顔で突っ立てても選手は誰もついてこない。こういう気持ちの空っぽな人間が何年率いてもチームは上向かない。名門復活には根本から人心を一新し、まず一塁への全力疾走から徹底できるガッツある指導者の招聘が必須。

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瀬﨑明日香ヴァイオリンリサイタル@10/9紀尾井ホール

線が太くしかも敏捷な音楽の大型奏者

瀬﨑明日香はほんのり色気の漂う美音で骨格のがっしりした力感のある音楽が持ち味のヴァイオリニスト。作品全体の論理を見据える知性があり、しなやかな輪郭の解像度の高い響き。楽想の変化に反応してスパッと切り返す鋭さは鮮やか。ソロはもとよりアンサンブルリーダーとしてのキャプテンシーも素晴らしい。

10月9日(月・祝)に瀬﨑は紀尾井ホールでデビュー25周年記念のリサイタルを行う。モーツァルト、リヒャルト・シュトラウス、フランクのヴァイオリン・ソナタラヴェルのツィガーヌを交えた大陸ヨーロッパの王道名曲プログラム。

瀬﨑は雑誌「音楽の友」2017年10月号掲載のインタビュー記事(きき手長井進之介)でヴァイオリンとピアノのデュオはシンプルかつ交響的な奥行きがあり、10年以上共演を重ねるシュトロッセと奏でる今回のプログラムはカントロフとパスキエに師事したことやヨーロッパでの演奏活動によって培ったものを生かし、表現できる内容。またひとりの表現者として現代の社会で音楽が果たせる役割が何か考え、行動していると語った。

単にヴァイオリンが卓越しているだけにとどまらず、芯の通った言葉で語れる真のアーティスト。最高の音楽を最高の演奏で聴き手に届けるはず。

2017年10月9日(月・祝)紀尾井ホール14時開演

瀬﨑明日香(ヴァイオリン)

エマニュエル・シュトロッセ(ピアノ)

~プログラム~

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタK.296

リヒャルト・シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ

ラヴェル:ツィガーヌ

フランク:ヴァイオリン・ソナタ

瀬﨑明日香デビュー25周年ヴァイオリンリサイタル | 瀬﨑明日香オフィシャルサイト

2017.10.9(月祝)瀬﨑明日香ヴァイオリンリサイタル〜デビュー25周年〜 | 株式会社オーパス・ワン | Opus One Co., Ltd.

 

※文中敬称略

【Hatena Blogお題より】秋の夜長に読みたい本

今週のお題「読書の秋」

春夏秋冬本を読んでいる身としては「読書の秋」で特別何か読もうとは考えないが、面白そうなので「読書の秋」と聞いて思い浮かぶタイトルを挙げてみた。

1.ジェフリー・アーチャー著、永井淳訳『ケインとアベル上・下』(新潮文庫

エンタテインメント小説の帝王の最高傑作。アメリカを舞台に対照的な出自の2人の人生行路を洗練された文章で起伏豊かに描く。著者の持ち味である登場人物の設定、キャラクター付けの巧みさ、キレのある展開が魅力。イングランド人の著者から見た移民、アメリカンドリームの国の描写も面白い。

2.猪瀬直樹『黒船の世紀』(小学館

日本の近現代の伏流水に光を当てさせたらこのひとの右に出るものはいない。日露戦争後、日米双方で刊行された「未来戦記」から真珠湾攻撃までの日米の世論、市井の精神状況を読み解き、日本人にとって「黒船(=外圧)」とは何か考察する。

3.長谷川郁夫『吉田健一』(新潮社)

からみつく文体が癖になる文士、吉田茂元首相の子息、身体に流れる若き日の英国の日々、挿話の詰まった文壇での交遊・・・どこを取っても一筋縄ではいかない大人の評伝。明快かつ重層性があり文学者を描いた評伝の数少ない成功作。

4.阿川弘之座談集『文士の好物』(新潮社)

旧海軍軍人としての矜持、簡潔で品格漂う引き締まった文体、復古にも進歩にも浸らず背筋を伸ばして歩んだ佇まい。戦後日本文壇最高の偉人、阿川弘之は今や「阿川佐和子のお父さん」になってしまった。本書は「最後の文士」の口語においても非凡だった面を伝える。なかでも向田邦子高松宮妃殿下との稜線の深いやり取りは格別の読後感。

5.リチャード・ミルハウス・ニクソン著、徳岡孝夫訳『指導者とは』(文春学藝ライブラリー)

元アメリカ大統領が公職として向き合った政治指導者の分析と自らの経験を交えて著したリーダー論の傑作。チャーチル、ドゴール、フルシチョフ、アデナウアー、マッカーサー吉田茂周恩来を取り上げて生々しいやり取りとともに各人の指導者像を鋭く描く。抽象論は一切なく体温の感じられる具体的な切り口の文章で一貫し、通して読めばリーダーの資質、権力者の心理とは何かが身体に入ってくる。実のところ岡義武などは例外だが日本ではびこる政治家論、リーダー論の殆どは本書の受け売り。程度の低い本や新聞・雑誌記事だと出典なしにパクっているケースすらある。