アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

2023年5月27日(土)/パシフィックフィルハーモニア東京

パシフィックフィルハーモニア東京 第157回定期演奏会

東京芸術劇場
~プログラム~
シューベルト交響曲第5番
-休憩(20分)-
シューベルト交響曲第8(9)番「ザ・グレイト」

当日のゲネプロ時に指揮の外山雄三が体調不良となり
一部予定を変更した上で 開催されたが投稿の通りの事態に
オーケストラが演奏を続けたことへの批判を目にしたが
心臓発作で倒れたわけではなく
事前にある程度想定していたと推測できるので
演奏し続けた判断は妥当だと考える

外山雄三さんは2023年7月11日に92歳で逝去された

結果的に最後の舞台となった日の記憶を留めるため 本稿は手を加えずに残します

2023年4月30日/尾高忠明指揮、読売日本交響楽団、グザヴィエ・ドゥ・メストレ〔ハープ〕

今週のお題「何して遊ぶ?」

読売日本交響楽団 第258回日曜マチネーシリーズ東京芸術劇場

尾高忠明(指揮)

~プログラム~

グリエール(1875-1956):ハープ協奏曲(グザヴィエ・ドゥ・メストレ〈ハープ〉

ソリストアンコール※

ファリャ(1876-1946):歌劇「はかなき人生」からスペイン舞曲第1番

-休憩-

ラフマニノフ(1873-1943):交響曲第2番

アンコールを含めて同世代の作曲家3人が並んだ

メインが指揮者の十八番 前半の協奏曲はソリストの新譜の収録曲目と

内容 集客の両面を確実に押さえる構成 実際ほぼ満席で中身も充実していた

メストレのハープは1音1音の粒立ち 強弱光陰のコントラスト 流れの浮き沈み

いずれも録音より遥かに際立ち しかも余裕のある仕立て

ピアノ ヴァイオリンの名手以上に 「世界基準」が聳え立つさまを体感した

アンコールに至ってはハープの音色がオーケストラに聴こえるほどの強い輝き

やはり国際舞台でバリバリやるにはまずメカニックとパワーだと改めて思う

中編成のバックは芯のある響きで弾力的にソロと渡り合う

金管が3本のホルンだけなのは ホルン協奏曲の佳品をものした作曲家ゆえか

第2楽章にブラームス交響曲第4番の第1楽章

第3楽章でチャイコフスキーピアノ協奏曲第2番の第3楽章に似た楽想が登場

後半のラフマニノフは第1楽章提示部の反復を履行しない形の完全版

読響の各パートの練度が高く 弦は楽想に応じて量感が自在に増減 金管楽器はタフに鳴りつつ 響きのピラミッドを守る

ヘンにテンポで煽ったり 脂ぎった歌い込みをせず 作品の各要素を誠実に響きへ移し

語っていくスタンス オーケストラが指揮者の意図を若干上下方向に拡大解釈した印象で

吹かした時のスケールは壮麗 他方静かなところの妙味も明晰に可視化

指揮者 ソリスト オーケストラの三者がそれぞれきっちり持てる力を発揮

余計な企画ではなく 音楽のみで聴衆を魅了したコンサート

 

2023年2月18日/米田覚士指揮 ユニコーン・シンフォニー・オーケストラ【若人から先人へ】

オーケストラの成り立ちについてはこちらを御参照あれ。

twitter.com

Unicorn Symphony Orchestra

橋本國彦の交響曲第1番の第1楽章はヴァイオリニスト出身ゆえか、弦のリードで楽想を導く。エルガーの「南国にて」に似たちょっと厳かな地中海風の主題を軸に緻密な展開。途中唐突に機会を意識した体の祝典調の楽想が挟まるのが惜しい。後半の疑似ブルックナー的登攀がなかなか見事なだけに。第2楽章は東洋的ボレロ。第3楽章は越天楽をもとにした伊沢修二(1851-1917)の唱歌紀元節」(1888)の主題が用いられる。前半チャイコフスキー組曲第3番のフィナーレを思わせる変奏、後半がフーガ。

紀元節の歌 2月11日/ 祝日大祭日唱歌八曲 - YouTube

若い指揮者とオーケストラはおそらく初めて向き合う先人の遺産をきちんと凹凸をつけて真摯に奏でた。後半は橋本作品から20年ほど前に生まれたラヴェルストラヴィンスキーの作品を配し、橋本國彦がどんな音楽から影響を受けたか想像できるプログラム。

価値あるコンサートだった。

2022年の年間・読書メーターまとめ

2022年の読書メーター
読んだ本の数:31
読んだページ数:9327
ナイス数:123

絶筆絶筆感想
タイトル通り最晩年の短編を集めた遺稿。今後未発表作の発掘可能性はあるが最後の「新作」集。「死」の想念がたちこめる一方で著者特有の「生」への執着、俗っぽくいえば往生際の悪さが投影され、ある種の親しみがわく。著者の四男・延啓氏による解説あり。端正な文面で晩年の姿を伝える。心霊現象的ものに対する関心は最後まで尽きなかったようだ。装画は著者(愼太郎)によるもの。リードページには青年期の自画像を収録。
読了日:12月28日 著者:石原 慎太郎


親愛なるレニー: レナード・バーンスタインと戦後日本の物語親愛なるレニー: レナード・バーンスタインと戦後日本の物語感想
橋本邦彦と天野和子は、バーンスタインに興味のあるひとなら周知の名だと思うが、そうでもないようだ。日本人は面白い人種で 景気が悪くなると、歴史的人物もしくは事件に日本人が関わっていたというネタを発掘してくる。その大半が対象の本質とは関係がない「高級なゴシップ」。実は高い知名度とは裏腹に現代の音楽界にバーンスタインの影響圏は「West Side Story」以外殆どない。賢い小澤征爾氏はバーンスタインの「脆さ」を見抜くと距離を置き、カラヤンに傾斜した。現代指揮界の重鎮はムーティなどカラヤン系が多数派。
読了日:12月11日 著者:吉原 真里


ティンパニストかく語りきティンパニストかく語りき感想
新日本フィルティンパニスト近藤高顯が複数のガイド本に書いたコラムやキャリア回顧をまとめて補筆したもの。本丸の活動では朝比奈隆との「真剣勝負」(!?)が面白い。著者は来日オーケストラのエキストラにも数多く立っており、打楽器から見渡したミュンヘンフィル(チェリビダッケ)、ベルリンフィルカラヤン)など名門オーケストラそれぞれの「流儀」を活写している。良い指揮者は優れた奏者の音楽的判断を尊重するし、そういう判断ができる人間の集団が名門オーケストラだと分かる。
読了日:11月09日 著者:近藤 高顯


アシモフの雑学コレクション (新潮文庫)アシモフの雑学コレクション (新潮文庫)感想
1979年原書刊 1986年邦訳文庫化 アシモフ没後30年で再読 当然間違い(例えばバーンスタイントスカニーニではなくワルターの代役でデビュー)や研究の進歩による要訂正事項はあるが 老練な語り手の科学小咄と思えば超一級品 唸るネタからブラックジョークまで話術の引き出しは無限 星新一が他人の書くものをどう見ていたかの手がかりとしても貴重
読了日:11月09日 著者:アイザック アシモフ


夢見鳥夢見鳥感想
養父(祖父)、実父、実母からのプレッシャーを受け、葛藤し苦しみながら歩んだ過程の厳しさに身がキリキリした。ジャズ、ポリーニのピアノをはじめとする音楽への広い関心など役者以外の部分は楽しく読める。 日経朝刊文化面「私の履歴書」連載をもとにした半生記のほか、当たり役に関する述懐、4歳の初舞台から75歳までの上演記録を付す。
読了日:11月09日 著者:中村 吉右衛門


ヴァイオリニストの第五楽章ヴァイオリニストの第五楽章感想
固有の光沢を放つ音色と気品ある容姿。約60年現役として活躍するヴァイオリニストの半生記。ストコフスキー、ケンペ、シゲティミルシテインチャップリンと多彩な登場人物に縁取られた人生は挿話だけでも楽しい。ソ連留学時の苦闘は同国の芸術の光と伸びる影を物語る。 彼女の恩師・齋藤秀雄がシベリウスのヴァイオリン協奏曲の第3楽章のリズムを「(作曲当時フィンランドを圧迫していたロシアの)軍靴の音だ」と説明したエピソードは現下の情勢から想えばドキリとするもの。
読了日:11月08日 著者:前橋 汀子


石原家の人びと (新潮文庫)石原家の人びと (新潮文庫)感想
外から見ると「男性色」全開の家だが内側からの眼だと女性でもっていたことがうかがえる 食卓の会話で子供を鍛える石原慎太郎家の方針は素直に感心した 良いものは大作家のネタになったらしい また著者は石原裕次郎の内面を的確に覗いている
読了日:11月05日 著者:石原 良純


だめだこりゃ (新潮文庫 い 65-1)だめだこりゃ (新潮文庫 い 65-1)感想
1980年生まれなので「全員集合」はおぼろげ、「ドリフ大爆笑」の銭湯コントで笑い、俳優として「夢」「踊る大捜査線」で唸った思い出。工員からバンドマンに転じ、「ドリフターズ」へ加わりリーダーとなるが、主要メンバーの造反に遭う。約2週間であのメンバーを集めて「(新)ドリフターズ」を仕立てた豪腕が面白い。以降は荒井注志村けんのみ。根底に流れる「音楽」、前記番組の逸話、俳優業の面白さをこざっぱりと。たぶんリアルよりキレイな感じだが想像する余白が楽しい。SMAPを「ドリフより上」と書ける粋さ。
読了日:10月22日 著者:いかりや 長介


どのアメリカ?:矛盾と均衡の大国 (セミナー・知を究める 4)どのアメリカ?:矛盾と均衡の大国 (セミナー・知を究める 4)感想
1年ぶりの再読。著者の半生記を交えつつ「今のアメリカは…」という飛び付き系の論評ではなく、過去と現在に加え、各時代における矛盾した多面性をあぶり出し、色々言われてもなお抜群に目立つ国家「アメリカ」を成す要素に迫る。父君譲りの簡潔で目のつまった文体が心地好い。
読了日:10月20日 著者:阿川尚之


まだ間に合う 元駐米大使の置き土産 (講談社現代新書)まだ間に合う 元駐米大使の置き土産 (講談社現代新書)感想
45の短い章で学生時代の勉強に始まり、社会人のイロハ、良きOB像まで人生の各場面とのつきあい方を簡潔に指南。講演やジョークまで含むのは著者の経歴を反映した特徴。率直を通り越して辛辣までメーターの上がる言葉もあるが独特の薄いユーモアで中和しているのがうまい。
読了日:10月01日 著者:藤崎 一郎


佐藤栄作日記〈第3巻〉佐藤栄作日記〈第3巻〉感想
最も読み応えのある時期 吉田茂国葬(何と手際のよいこと ちゃっかり形見もせしめる)沖縄返還交渉(有名な若泉密使に加え 岸元首相をアイゼンハワー国葬へ派遣 ニクソンの腹を探らせる)マーガレット王女来日(「ミニ(スカート)」に反応)
読了日:09月30日 著者:佐藤 栄作


なぜか売れなかったぼくの愛しい歌 (河出文庫)なぜか売れなかったぼくの愛しい歌 (河出文庫)感想
10年以上の愛読書。タイトル通りの随筆集。ただ「円舞曲」(ちあきなおみ)「あれから」(小林旭)「君よ八月に熱くなれ」(熱闘甲子園のテーマ)など名曲も多い。質実で心にズキッとくる文章は読むたびに違う味がする。印象深いのは「酒場の金魚」(香田晋)。著者は香田晋を「節まわしが得意」とし、自身の詞の言葉には合わないと記す。なのに書いたのは香田晋の属したプロダクションの社長が旧知で「熱血の人」だから。遠回しに限界のある歌手とみた様子も漂う。香田晋が後年バラエティに転じ、結局芸能界から退いた理由が何となく分かる。
読了日:09月12日 著者:阿久 悠


終戦詔書と日本政治 - 義命と時運の相克終戦詔書と日本政治 - 義命と時運の相克感想
日本が最終的に敗戦を受け入れ、宣明するまでの意思決定過程を緻密で分かりやすい構成によって描いた書籍。巻頭資料で終戦詔書が形成されるまでの草案をページをめくって追体験できる。断片的な「戦争体験」なるものを通じて「2度と戦争はしてはいけない」という誰でも辿り着く単純な結論に達するより、本書から敗戦とは何だったかを見据え、そこから今日的課題を考察した方が遥かに有意義。学校教育においても然り。
読了日:08月15日 著者:老川 祥一


武満徹を語る15の証言 (「武満徹を語る」インタビューシリーズ)武満徹を語る15の証言 (「武満徹を語る」インタビューシリーズ)感想
現代音楽が得意なピアニストと会うにあたり、久々に通読した。武満徹の音楽を深掘りしたいひとにとってピーター・バート『武満徹の音楽』、立花隆武満徹:音楽創造への旅』と並ぶ基本書籍。武満徹が孤高の才能でありつつ、優れた才能を持つ芸術家との共同作業で自身を羽ばたかせた事実を実感する。しかも相手の領域を深く知りながら、ズブズブにならず、音楽同様自由な浮遊性は失わない。それゆえ池辺晋一郎の言うように逝去時の受け止めが普通の音楽家仲間の死とは異なったのだろう。注釈、海外初演作品のリスト、年表など側面記述も充実。
読了日:08月12日 著者:岩城 宏之,篠田 正浩,林 光


時代を動かす政治のことば―尾崎行雄から小泉純一郎まで時代を動かす政治のことば―尾崎行雄から小泉純一郎まで感想
20年ほど前の読売新聞連載の書籍化。「ワンフレーズポリティクス」になり始めた時期に「言論」の価値を見つめる企画だった。首相クラスはもとより戦前の雄弁家、野党政治家の言葉まで取り上げているので日本政治史の入門書としても読める。やはり漢籍の素養があった世代の言葉は良くも悪くも厚みを持つ。そして「改革」という言葉を政治家が自らに権力の磁場を引き寄せることに利用する危うさは時代が変われど共通している。この30年における典型例が小沢一郎氏。彼の「普通の国」とは何だったか、いまとなっては本人すらお忘れのようだ。
読了日:08月10日


死という最後の未来 (幻冬舎文庫)死という最後の未来 (幻冬舎文庫)感想
死は虚無と言い張りつつ、それをグジグジ探ろうともがき、病を抱えた晩年だが頑固に創作、肉体の生に執着する石原愼太郎。クリスチャン的思考と持ち前の恬淡さの相互作用で死を「よい制度」「ミッション・コンプリート」と言ってのける曾野綾子。かみあわないやり取りの隙間に生き方、死との間合いに関するヒントが横たわる。学校で死について考える「死学」の時間が必要という曾野綾子の主張は興味深い。そうした思索を早い時期に行えばいわゆるカルトに嵌まるのを防げるかもと思った。
読了日:08月05日 著者:石原慎太郎,曽野綾子


海の家族海の家族感想
表題の通り海、家族の絡み合う業が綴られた短編集。シンプルな文体に潜む棘のある余韻。遭難者からヤマトタケルまで想像の幅は広いが、いずれの作品も死に対する視座、死の香りが濃く流れる。
読了日:07月18日 著者:石原 慎太郎


わが人生の時の時 (新潮文庫)わが人生の時の時 (新潮文庫)感想
久々の再読。作家、石原愼太郎の持ち味が最も発揮されたのは身体的実体験から削り出された短編や掌編。 本作は「業」「死」「孤独」が交錯する瞬間を切り取った佳品が並ぶ。著者にとって前記三要素の象徴は海なのでそこを舞台とした作品が多く、沈潜する影が垂れ込めるシンプルな筆捌きが際立つ。「あと書きにかえて」によれば1982年のベルリンで大江健三郎に海でのある体験を語ったところ、書き残すように勧められたことが執筆のきっかけ。ラストの「虹」は実弟裕次郎の最期を描いたもので後に『弟』に事実上転用した。
読了日:07月14日 著者:石原 慎太郎


金鍾泌証言録金鍾泌証言録感想
金鍾泌・元韓国首相(国務総理)が2015年に応じた韓国・中央日報のロングインタビューをもとにしたもの。 朴正熙氏の政権奪取への協力、朴大統領の下で首相として携わった日韓国交回復、公職追放を経て民主化後の政治家転身、かつて朴氏の政敵だった金大中氏の大統領当選に手を貸した後の2度目の首相就任、現行大統領制への批判などを詳細かつ率直に語る。 歴史問題や竹島についてかなり辛辣な見解を述べつつも対日関係の重要性を繰り返し強調する。韓国の発展には日本の力が必要という合理主義者の旗は最後まで下ろさなかった。
読了日:06月23日 著者:金鍾泌


フォト小説 ハンスとジョージ 永遠の海へ Hans and George-Journey to the Timeless Seaフォト小説 ハンスとジョージ 永遠の海へ Hans and George-Journey to the Timeless Sea感想
岡本行夫さんの趣味がダイビングとマリンフォトで海洋環境保護に関心が深いことは生前から存じ上げていた。沖縄県にある米軍普天間基地の名護市辺野古沖への移設を巡り、岡本さんは当時の梶山静六官房長官の求めに応じ、珊瑚などの保全と基地機能の両立を図る独自案を作成している。(『90年代の証言 岡本行夫』〔朝日新聞出版〕より)。 今回、本書を通じて岡本さんの清澄な心情、鋭い問題認識に触れ、胸が震えた。環境、安全保障、資源…海洋国家日本の海との関係性は複雑で重層的。そこに住む我々はもっとこの領域に目を開かないとダメだ。
読了日:06月21日 著者:岡本行夫


倉本昌弘の自由奔放ゴルフ倉本昌弘の自由奔放ゴルフ感想
トッププロとして活躍する一方、日本プロゴルフ協会会長も務めた倉本昌弘氏が「週刊新潮」に2017年5月から2019年5月まで連載した「冒険ゴルフ」をまとめたもの。かつて青木功氏が同誌に書いた「おれのゴルフ」(『ゴルフ青木流』)に似るが、比べると半生記や名勝負の回想よりゴルフに対する考え方を明かし、一般アマチュアの誤解を正す記述が多い。「夏のゴルフ」は実用的だし、往年のTVM「Shell's Wonderful World of Golf」へのオマージュ、「神様」中部銀次郎の影の側面を記した項は面白かった。
読了日:06月19日 著者:倉本 昌弘


指揮者は何を考えているか:解釈、テクニック、舞台裏の闘い指揮者は何を考えているか:解釈、テクニック、舞台裏の闘い感想
「指揮者のオモテとウラ」を指揮者自身が書いた本としては故・岩城宏之さんの『指揮のおけいこ』以来の傑作。著者のジョン・マウチェリ(1945-)は名門イェール大学出身、ハリウッドボウルの音楽監督を務めた。岩城さんより踏み込んだ、しかも明快な筆致で指揮棒を持つor持たないの差異、スコアをどう読み込むのか、指揮者による違いの根源、楽団(マネジメントサイドを含む)との相剋など聴き手の気になるテーマを綴る。マウチェリがアシスタントをしたバーンスタインをはじめ、大音楽家とのエピソードも盛り込まれ、一気に読み通せる。
読了日:05月15日 著者:ジョン・マウチェリ


三島由紀夫の日蝕三島由紀夫の日蝕感想
作品論によらず「死」「行動」「肉体」の相互連関から三島さんの本質をとらえた一冊。結果的に石原愼太郎さん自身の核心も浮かび上がる。文庫化もなく絶版のままだが三島さんについて書かれた本の中では『ペルソナ』と双璧をなす存在。電子でもいいので広く読まれて欲しいと思う。
読了日:05月10日 著者:石原 慎太郎


人生の意味人生の意味感想
晩年、ペントハウスに載った兄弟対談が読める。懇意の編集者から「何か新年号のいい企画は…」と持ちかけられた石原愼太郎さんが、既に裕次郎さんの病を知っていたので餞のつもりで「じゃあ弟と対談するか」と提案。何も知らない先方は驚喜してキャピトル東急の大きな部屋を取り、金屏風まで設えたという(詳しくは石原愼太郎『わが人生の時の会話』(幻冬舎文庫))。 裕次郎さんは兄の監督、脚本で自らが主演する映画の構想を語り、愼太郎さんも調子を合わせて「こんなプロットかな」等と語った。
読了日:05月10日 著者:石原 裕次郎


岡本行夫 現場主義を貫いた外交官 90年代の証言岡本行夫 現場主義を貫いた外交官 90年代の証言感想
久々に通読した。湾岸戦争が日本衰退の始まりだと改めて実感した。あの時に安全保障、日米関係、地政学的視野に基づく外交政策をきちんと練る、体制整備を行う機会だったのに下らない選挙制度変更に狂奔したのが日本の運のつき。
読了日:04月20日 著者:五百旗頭 真,伊藤 元重,薬師寺 克行


私を通りすぎた政治家たち (文春文庫)私を通りすぎた政治家たち (文春文庫)感想
著者は元警察官僚で内閣安全保障調査室長も務め、退官後はコメンテーターとして活動。ある時期まで「現場の経験に基づいた危機管理」「国益を踏まえた治安対策」を語れる数少ない人物だった。自慢話の目立つところはあったが、言説には現役時代からのメモとその検証の裏付けがあり、また専門用語を乱発せずに話せたので単なる「正論」以上の説得力を有した。 歴代駐日米国大使のライシャワーマンスフィールド、アマコスト、フォーリー、ハワード・ベーカーなど海外要人との挿話が興味深い。あと加藤紘一小沢一郎のどうしようもなさには呆れる。
読了日:04月02日 著者:佐々 淳行


社会思想としてのクラシック音楽 (新潮選書)社会思想としてのクラシック音楽 (新潮選書)感想
経済思想の第一人者が作曲家やその作品を中心にクラシック音楽と社会思潮の変化の関係を考察した著作。前半は18世紀から19世紀の音楽史、音楽様式、思想的背景の記述が中心で少しダレるが、第7章「政治体制と音楽家」辺りからは芸術、政治権力、社会の営みの微妙な位置関係を多角的に考察しており、引き込まれる。
読了日:03月21日 著者:猪木 武徳


昔は面白かったな―回想の文壇交友録―(新潮新書)昔は面白かったな―回想の文壇交友録―(新潮新書)感想
石原愼太郎(2022年2月1日逝去)と元「新潮」編集長の坂本忠雄(2022年1月29日逝去)の連続対談。 タイトルからは平板なノスタルジー本と判断されそうだし、実際そういう時間も流れるが、三島由紀夫さんなど戦後文壇の大物たちのさりげない挙措に対する両人の言葉が当該作家の本質を突く瞬間があり、時々ギクッとする。大江健三郎(石原愼太郎に「(稀有な体験は)必ず書いて《新潮》の坂本編集長のような人物に預けた方がいい」と促し、『わが人生の時の時』を書くきっかけを与えた)への2人の敬意と意識が深い読後感をもたらす。
読了日:03月15日 著者:石原慎太郎,坂本忠雄


このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法感想
自身がどんなタイプの人間か、仕事(能力)の源泉は何か、自身の仕事の現在地を見定め、そこから仕事の探し方やどんな仕事を見つけるかを掘り下げる重要性が押し付けがましくない言葉で入ってくる。物語形式なのでちょっと煩わしい要素もあり、気が短く一定の想像力に恵まれたひとは巻末のまとめだけ読めばいいし、そこだけちぎってあとはポイでも構わないだろう。なるべく安く買ってパッと読む本。
読了日:02月25日 著者:北野 唯我


ベートーヴェンのトリセツ 指揮者が読み解く天才のスゴさベートーヴェンのトリセツ 指揮者が読み解く天才のスゴさ感想
指揮者の曽我大介は独自性のあるプログラミングのコンサートで知られる一方、執筆活動も熱心。本書は朝日カルチャーセンターの講座がもとで9つの交響曲を中心にベートーヴェンの生涯や創作の秘密に迫った内容。スコアに隠された工夫から聴き手の音楽認知のポイントまで踏み込んだ解題はきめ細かく、ベートーヴェンを窓口にしてクラシック音楽の本質の一端が浮かび上がる。脳科学者の酒井邦嘉のコラムも興味深い。クラシックファン、ベートーヴェンファンはもちろんだが、アマチュアオーケストラなどで演奏機会のある方には特におすすめの1冊。
読了日:02月10日 著者:曽我大介


ゴルフが嫌いになる本―これを読んでも好きならあなたは本物のゴルファーゴルフが嫌いになる本―これを読んでも好きならあなたは本物のゴルファー感想
巷の記事にあふれるゴルフエピソードのうち、「ビッグ3」時代を中心とするちょっと旧い話は大体この本から断りなくひいたもの。悲喜こもごも、喜怒哀楽、幸運、不条理…白球と芝の狭間で浮かぶ人間の本性が活写されている。アイゼンハワーから無名人まで多面性に富む登場人物。序文はリー・トレヴィノ。
読了日:01月26日 著者:ドン ウェイド
読書メーター

2022年12月の読書メーターまとめ

読んだ本の数:2冊 読んだページ数:592ページ ナイス数:4ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら-> https://bookmeter.com/users/1322231/summary/monthly/2022/12

 

2023年1月21日/髙橋 望(ピアノ)【10年目のバッハ巡礼】

ピアニスト髙橋望についてはこちらを参照。

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昨年にデビュー20周年を迎え、毎年1月恒例のゴルトベルク変奏曲がメインのコンサートも10年連続10回目となった。

上記の通り、今回は当方の事情でモニター越しとなったが、毎年同じ作品を取り上げて、ディテールの透明性、作品の論理を可視化するかっちりした構築といった表現の骨子は変わらないが、どこか違う側面を聴かせる。

この日は冒頭からラストまでなだらかなアーチのかかる響きの稜線の美しさが画面越しにも感じられた。

幸いアンコールはホールで聴けて短いなかに奏者の探究心が伝わった。

J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 髙橋望

J.S.バッハ:パルティータ第1番~第3番 髙橋望

J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集」第1巻 髙橋望

トロイメライ 髙橋望ピアノ・アルバム

【謹賀新年】ウィーン・フィル ニューイヤーコンサートの過去と現在

あけましておめでとうございます。いつも御覧の皆様ありがとうございます。

クラシック音楽や書籍を中心に読んだ方の文化的感性を少しでも刺激する発信ができればと存じます。

新年最初の記事のテーマはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ニューイヤーコンサート

元々ナチスオーストリア併合への不満を抑えるために始めたもの(1939年12月31日)で、黎明期の指揮者はクレメンス・クラウス(1893~1954)とヨーゼフ・クリップス(1902~1974〔クラウス活動停止中の2回〕)。
クラウス逝去後の1955年~1979年はヴィリー・ボスコフスキー(1906~1991)、ボスコフスキー勇退を受けて1980年~1986年はロリン・マゼール(1930~2014)。
そして1987年のカラヤン以降は各時代を代表する指揮者が登板してきた世界一有名なクラシック音楽イヴェント。

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往年の指揮者による名演と過去10年のコンサートから個人的お気に入りを取り上げる。

別格の4人(ボスコフスキー/カラヤン/カルロス・クライバー/プレートル)

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ディスク冒頭の「くるまば草」序曲はブラームスとの逸話(恐らくフィクション)で知られる。

ニューイヤー・コンサート・コンプリート・ワークス

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ウィンナワルツの醍醐味を一期一会のコンサートに盛り込んだプログラム。ウィーン少年合唱団以外の声楽ソリストが出演したのも2023年現在空前絶後

Blu-ray Disc カラヤンの遺産 ニューイヤー・コンサート1987

CD New Year's Concert 1987/Herbert Von Karajan

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コンサートの性格を考えるとこの張り詰めた空気は異質だが、抗い難い魅力。

ニューイヤー・コンサート1989

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クライバーは幕開けのニコライ:「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲の自筆譜のマイクロフィルムを取り寄せて確認したという。

ニューイヤー・コンサート1992

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オッフェンバックからの引用のある作品やパリにちなんだ曲の入った、指揮者の色とシュトラウスの器用さ、時代性を伝えるプログラムだった。

近年の「割とまし」な演奏(メータ/故ヤンソンス/ムーティ/ティーレマン

イヴェントを上品に盛り上げる指揮者としてはナンバーワン。

生粋のウィーンスタイルの身についた数少ない現役指揮者。

Blu-ray Disc Neujahrskonzert - New Year's Concert 2015

CD Neujahrskonzert - New Year's Concert 2015

マリス・ヤンソンス(1943-2019)はウィーン・フィルの名誉団員。

いずれの名門楽団とも付き合いの良かった人格者。

CD Neujahrskonzert - New Year's Concert 2016

書籍 マリス・ヤンソンス すべては音楽のために

引き締まった進行、気迫漂う歌い込み、スコアへの忠誠心の徹底さに敬服するも、どこか硬さのつきまとうひとだが、この頃から柔軟性が出始めている。

Blu-ray Disc Neujahrskonzert - New Year's Concert 2018

CD Neujahrskonzert - New Year's Concert 2018

CD ニューイヤー・コンサート2019

2024年はこのクリスティアンティーレマン(1959~)が指揮台に立つ。
上記2019年のコンサートの生中継を見た当時の感想はこちら。

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いまウィーン・フィルブルックナー交響曲全集録音を継続中のティーレマン

65歳を迎える年の初めにどんなタクト捌きを見せるか。