アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

2022年6月11日/海老原光指揮、ザ・シンフォニカ【勘所を堂々と響かせた好演】

 
 
 
 
 
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A post shared by Tadashi Nakagawa (@choku_nakagawa)

リヒャルト・シュトラウス:「死と変容」とブラームス交響曲第4番を並べたプログラムで思い出すのはチェリビダッケ指揮、ミュンヘンフィルの1986年来日公演のライヴ録音。あれは1曲目にロッシーニ:歌劇「どろぼうかささぎ」序曲を置いていたが、今回聴いた演奏会は一層負担の重いワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲が幕開き。

冒頭の管楽器から弦楽器への受け渡しで明瞭にして陰影のたちこめる響きが展開すると、楽器の増えていくところは流れの中で決まり、最初の山場の弦楽器もシャープで適度な粘着性のある音を刻む。その後も各パートがアンサンブルの緊張感を保ちながら、劇的感興の漂う音色で役割分担を印象付け、楽想の浮き沈みを緻密に再現していく。ラストの登攀は日本のオーケストラにとって難関だが、指揮者のリードがうまく無理のない形で堂々たるクライマックスが築かれた。弦楽器は等価で弾き続ける楽節を玉石混淆の響きにせず、明澄に描き抜いた。

死と変容」は序盤の楽器が増えるところを無難に乗り切ると、力感に加えてアンサンブルの制度も求められる難所を鋭い切り返しで鮮やかにクリア。弦の鳴りっぷり、管の隈取りともに冴え渡る。中盤に出てくる後年シュトラウスが好んで引用したフルート、オーボエの旋律が明瞭に奏でられたのは見事。全体としてテンポ設定、山と谷の繋げ方の勝利だと感じた。

後半のブラームスは響きの透明度を保ちながら、随所で熱っぽく感情のウェイトが乗るツボを押さえた演奏内容。ただ、ところどころわずかに形の決まり切らない箇所があり、前半の2曲より若干残る印象が薄かった。とはいえ、後半の楽章の気迫と充実度は立派でしっかりと締めた。

名曲3曲をこの練度で聴かせたのは楽団の高いレヴェルの証。楽団員の皆様を心から讃えたいと思う。