アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

第77回読書週間(10月27日~11月9日)に読んだ本

読書週間については下記リンクを御覧下さい。

choku-tn.hatenablog.com

www.dokusyo.or.jp

2014年刊行

タイガース監督(第1次)辞任から6年後、その後就任したオリックス監督更迭の2年後のリリースなので両球団に関する筆致はかなり辛辣。

とりわけオリックスに関しては、もし彼が書いていることの半分でも本当なら当時の編成、スカウトは全く機能していなかった。

オリックスの長期低迷は必然だし、岡田氏がやればどうこうというレヴェルに達してすらいなかった、言葉を変えれば野村克也さんが監督した頃のタイガースみたいな状態だったと実感する。

しかし、「あとがき」には「タイガースとオリックス日本シリーズが私の望み」と記している。約10年後、それが実現し、自らが率いるタイガースが日本一。

岡田彰布氏の場合、地頭の良さ、その具体化の際に表れる特異な「引き出し」と「言語化回路」に加え、旧い流行語を使えば「もっている」ことが成功の理由だ。

2023年刊行

加山雄三氏こそ特別な星のもとに生まれたひと。

父が大スター上原謙、母方の高祖父は岩倉具視。子供の頃のお向かいさんは日本楽壇の恩人のひとり、大ピアニスト・指揮者のレオニード・クロイツァー(1885~1953)でピアノの音色に誘われて家の前をうろついていたら、何と邸内に入れてもらえたというエピソードまで。

戦後日本を代表する映画スターになり、同時並行の歌手稼業(一部のナンバーは自ら作曲)で数々のヒットを飛ばす。さらに趣味の世界でも絵画や陶芸は品評会で入賞、そして船でのもてなしから始めた料理まで玄人はだし。

現在は芸能界の一線を退いた加山氏が、作ってきた料理のレシピを軽妙なコメントと共に紹介する。グルメというより美味しいものをみんなでたくさん食べたいタイプのようで材料に時折高級な食材が出てくるほかは、さほど気取らない料理ばかり。

子供を想って作ったら大人にウケた辛くないホワイトカレー、生の玉ねぎがアクセントのステーキライス、あの周富徳さんが参考にしたというエビのオーロラソースなど前菜のサラダ系からデザートまで盛りだくさん。

凝り性の加山氏は、ゲストに配るメニューカードの原稿まで手作りした。印刷したメニューにはちょっと余白があり、食後に「おいしい」と言ったひとにだけサインしたそうだ。もちろんみんな分かっているためダイニングは「おいしい」の声で満ちた。

文庫初出1957年の超ロングセラーアイテム

家中の本が字の小さい頃の版だったので再購入。

列車消失、怪しい者の失踪、奇妙な募集・・・名探偵抜きでもドイルの短編における着想の妙とテンポのいい展開の巧さは冴え渡る。ホームズ物語と共通の「におい」が随所に漂うのも面白いところ。ラストの「五十年後」は一種のメロドラマだが、すんなり心に浸みる。

ドイルの認識ではホームズ物語は創作のごく一部。自身が本分と考えた歴史小説を筆頭にホラー系、海洋スリラー、ボクシング絡みの小説まで多彩な作品をものした。

また文筆の枠から冒険、政治、スピリチュアル的要素へと関心を拡げたあたりは、ちょっと石原愼太郎さんを想わせる。そういえば石原さんも短編で持ち味を発揮する作家だった。