アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

2022年8月10日/現田茂夫指揮、日本フィルハーモニー交響楽団【入門者には好適だったが】

 
 
 
 
 
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毎年ミューザ川崎コンサートホールをメイン会場に行われる「フェスタサマーミューザ」は、著名指揮者が振る主に在京オーケストラの名曲プログラムの演奏会を適正価格で聴ける「日本版プロムス」。2022年は3年ぶりにほぼ通常の形で開催された。

会期終盤の平日午後のコンサートながら幅広く活躍してきた指揮者の人脈、最近注目のソプラノ歌手の出演、そしてメインが大人気曲であることが相まって1階、2階は大体埋まり、全体を見ても6割の入り。

ちなみに別の日の公演だと筆者が聴いた井上道義指揮の読響は殆ど満席、だが知人の報告によると神奈川フィルの公演は半分近く空席だったらしい。この催しは指揮者、オーケストラの動員力の差がくっきり出る。

《プログラム》

J.S.バッハ管弦楽組曲第3番からアリア

リヒャルト・シュトラウス:4つの最後の歌(森谷真理〔ソプラノ〕)

~休憩~

ブラームス交響曲第1番

指揮/現田茂夫

管弦楽/日本フィルハーモニー交響楽団

コンサートマスター/田野倉雅秋

冒頭の曲はヴァイオリンのG線を使うようにヴィルヘルミが移調編曲した版の通称「G線上のアリア」で知られるが、原曲はG線を使わない。いまこの曲をモダン楽器のオーケストラコンサートで聴く機会は誰か亡くなった時の献奏もしくは大災害の犠牲者を悼む時くらいだから不思議な気分。

続いてはリヒャルト・シュトラウス最晩年の歌曲「4つの最後の歌」。

タイトルは死後の出版、初演の際に出版社がつけたもので、実際のシュトラウスによる最後の歌曲は長らく封印され、1985年1月にデイム・キリ・テ・カナワ(ソプラノ)、ズービン・メータ(指揮〔スコアの初演権確保に動いた〕)が初演した「あおい」。

「4つの最後の歌」はあらゆる歌曲の中で筆者が最も好む作品だが、実演で聴いたのは今回初めて。森谷真理は基礎のしっかりした通りのいい声で歌い、オーケストラも破綻なく支えるが、何とも物足りない。

とりわけオーケストラのいかにも「楽器を操作しています」という感じの音色は聴いていて気持ちが悪くなった。コンサートマスターの田野倉雅秋のソロは澄んだしなやかに伸びる音で流石だが、トップとそれ以外に断層があるのは二流楽団の証。

予習で聴いた下記音源との大きな差にがっくりきた。

 
 
 
 
 
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こうなるとブラームスに懸念が膨らみ(しかも現田茂夫のシンフォニーは初体験)、2,000円だし帰ろうかと考えたが、貧乏性ゆえ最後まで聴いた。ゆったり目のテンポで淡々と進んだがそれなりに歌われ、骨格もちゃんとしている。オーボエのトップは急遽登板だったらしい元新日本フォル首席の古部賢一がつとめ、格の違う玄妙な情感の音色と表現力を第2楽章のソロで示した。日本フィルの演奏会にOBとはいえ新日本フィルの人間が出演できたのは分裂から半世紀という時の経過のなせる業。

アンコールのハンガリー舞曲第4番(お気に入り!)は得意の小品だけあって骨太の響きで堂々と鳴らし込み、纏綿たるロマンをにじませて心動かされた。

やや辛いレビューとなったが2,000円のチケット代を考えればそれなりに満足できた。初めてオーケストラを聴く向きには好適だったろう。かつてカラヤンがいわゆる自閉症の子供たちと関係者を招待したコンサートでプログラムのひとつに「4つの最後の歌」を含めていたことを思い出した。