アフターアワーズ

文化・社会トピック切抜き帖

My Favorite Things

My Favorite Things:阿川弘之『食味風々録』【食から浮かぶ文士の情と品位】

2015年再文庫化。健啖家として知られた文士の「食」の回想録。鰻を巡る思い出、海軍時代の戦友から送られてくる品物が呼び覚ます過去の記憶、海外の珍味…食べ物の薫りに乗って人生の襞を感じさせる文章は味わい深い。邱栄漢さんと月餅の話など心和む。再文庫…

My Favorite Things:石原愼太郎『国家なる幻影』【私政治小説の最高峰】

2001年文庫化。1996年の議員辞職までの「第1期政治家人生」を自ら描いた作品。ノンフィクションとはとても受け取れないが、登場人物が全て実名の私政治小説と思えば傑作。非情、浪花節、非合理、裏切り、ブラックユーモアが詰め込まれた内容は密度が濃く、ど…

My Favorite Things:ジョン・フェインスタイン『天国のキャディ』

ゴルフの祭典、マスターズ開幕。本番前のプレイヴェントのパー3コンテストで2018年はトム・ワトソンが優勝した。本書は2006年刊行。ワトソンとキャディのブルース・エドワーズのストーリー。ブルースは難病ALSに侵され、2004年のマスターズ第1ラウンドの朝に…

My Favorite Things:サー・エドワード・ヒース『音楽-人生の喜び』【究極の二刀流】

1980年刊行。元英国首相でロンドン交響楽団の名誉理事長を務め、指揮台にも上がったサー・エドワード・ヒースの音楽に焦点を当てた回想録。EEC加盟が決まった日にダウニング街10番地でひとりバッハを弾くシーンはいま読むと切ない。プレヴィン、バーンスタイ…

My Favorite Things Special【シャーロック・ホームズ正典短編ベスト10①】

※一部ネタばれあり※ 前回の続き。ベスト10をコメント付きで。 choku-tn.hatenablog.com 第10位:青いガーネット(『シャーロック・ホームズの冒険』) 最初の帽子を巡る推理が楽しい。「名探偵」の能力を示す手段としてひとの経歴などを当てて見せるケースは多…

My Favorite Things Special【シャーロック・ホームズ正典短編ベスト10〔序章〕】

※一部ネタばれあり※ 読書遍歴の原点がサー・アーサー・コナン・ドイルが創作したシャーロック・ホームズ物語だという話を以前記した。 choku-tn.hatenablog.com ホームズ物語を生んだ作家ドイルの筆捌きの強みは①キャラクター創出能力、②アイディアの独創性、③素…

My Favorite Things【思い出の名車をミニカーで:アウディV8〔1988〕】

ミニチャンプス1/43アウディV8(1988):現在のアウディの原点。正攻法のデザインで30年経っても旧さを感じさせないのは大したもの。亡き父の愛車だった。#アウディ #アウディv8 #ミニチャンプス #1/43 #温故知新 サテンシュヴァルツメタリックの名を持つブラ…

My Favorite Things:服部龍二『中曽根康弘』『田中角栄』

ともに1918年生まれ、当選も同期のふたり。服部龍二先生は一次資料の読み込みのほか、中曾根氏本人を含む政治家、官僚OBの聞き取りを行ってきた成果も取り込み、精緻にしてひとの息づかいの聞こえるテンポのいい評伝にまとめた。田中角栄氏についてキャラク…

My Favorite Things【押尾愛子『朝比奈隆のオペラの時代』】

オペラをやることが「おおごと」だった時代に創造力と情熱を傾けた関西の芸術家たち。そのひとりとして「ブルックナー指揮者」になる前の朝比奈さんが獅子奮迅の活躍をみせる。「大向こう」を意識した芸のあり方は生涯変わらなかった。対象を等身大で描いた…

My Favorite Things:カラヤン指揮、BPhのヴィヴァルディ:調和の霊感

ザクザク、ブンブンと鳴るBPhが面白い。低音弦のうねりにドキドキ。2003年初出のヴィヴァルディ「調和の霊感」(1972年録音;4曲)はこの2枚組とバカでかいboxのみに収録。第10番はシュヴァルベ、ブランディス、シュピーラー、ヴェストヴァルが揃い踏み。#カ…

My Favorite Things:メニューインとフルトヴェングラー【本当の共演とは何か?】

サー・ユーディ・メニューイン(1916~1999)は音楽史上に輝く「神童」ヴァイオリニストだった。エネスコが指揮したショーソンの詩曲など10代の録音で聴ける妖気の漂う音色、大胆かつしなやかな起伏の付け方が特徴の演奏は「・・・歳としては」なんて次元を超えた…

My Favorite Things:岡崎久彦+佐藤誠三郎『日本の失敗と成功』(扶桑社)

明治維新以降の日本の核心を凝縮 2018年(平成30年)は明治維新150年。大河ドラマをはじめ、幕末から明治維新の流れにまたスポットライトが当たっている。明治維新以降の日本は上昇と下降の振り幅の大きい歩みだった。明治、大正、昭和の内政、外交の分水嶺…

My Favorite Things:『シャーロック・ホームズの冒険』【我が読書の原点】

10歳の誕生日プレゼントに母親から『シャーロック・ホームズの冒険』(サー・アーサー・コナン・ドイル著、久米元一/久米穣訳、講談社少年少女世界文学館)[※]をもらった。4編収録されていたが「ボスコム渓谷の謎」が当時一番刺さった。「警察が逮捕した人物…

My Favorite Things Special【ベートーヴェン:交響曲第3番】

思い出から俊英の拓く新たな1ページまで 20年以上前、ヴォルフガング・サヴァリッシュがフィラデルフィア管弦楽団と来日してベートーヴェンチクルスを行い、公演の模様はFMで中継された。この放送を聴いて初めてベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を聴いた…

My Favorite Things:浜田昭八『監督たちの戦い』【我が野球のバイブル】

日本経済新聞の運動部で30年以上野球を担当し、定年退職後の現在も同新聞にコラム「選球眼」を執筆する浜田昭八(1933-)が20世紀終盤に新聞連載し、書籍化されたのが『監督たちの戦い』(日経ビジネス人文庫、上下巻;2001年)。プロ野球監督の本質である…

My Favorite Things【フィギュアスケートを彩るチャップリン。その自伝の面白さ】

チャップリンメロディはフィギュアスケート男子シングルの人気プログラム。すぐ思い出せるだけでも織田信成氏の2009-2010シーズンFS、ハビエル・フェルナンデス選手の2017-2018SPが挙げられる。 「喜劇王」サー・チャールズ・チャップリン(1889-1977)は出演・…

My Favorite Things:ヴィヴァルディ「冬」あれこれ【ストコフスキー、カラヤンetc.】

フィギュアスケート男子シングルの宇野昌磨選手は2017-2018シーズンのショートプログラムにヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」の「冬」を使用。ピョンチャンオリンピックで団体戦、個人戦の両方において100点超の好演を見せた。 www.sponichi.co.…

My Favorite Things:マルケヴィッチと日本フィル【知られざる絆】

イゴール・マルケヴィッチ(1912~1983)は日本の楽団と壮年期から晩年まで断続的に縁を保った指揮者。日本フィルからは名誉指揮者の称号を贈られ、死の二ヶ月前には耳の病気の影響でほぼ聴力を失った状態ながらNHK交響楽団と東京都交響楽団に客演している。…

My Favorite Things Special【「三大交響曲」猛打賞は誰だ!?】

夏場の氷代稼ぎコンサートでよく取り上げられるのが「三大交響曲」と言われるベートーヴェンの交響曲第5番、シューベルトの交響曲第8(7)番「未完成」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。 誰がこう呼び始めたかは不明だが読売日本交響楽団は「三…

My Favorite Things Special【初めて聴いたクラシックコンサート】

エフゲーニ・スヴェトラーノフ指揮、NHK交響楽団/ベートーヴェン:交響曲第9番 佐藤しのぶ〔ソプラノ〕 永井和子〔アルト〕 市原多朗〔テノール〕 多田羅迪夫〔バス〕 国立音楽大学〔合唱〕 1995年12月23日(土)NHKホール 自らの意思で行った初めてのクラシ…

My Favorite Things:猪谷千春『IOC』【オリンピックを巡る不思議な世界】

1956年コルティナダンペッツォオリンピック男子回転の銀メダリストで引退後は保険業界に転じて活躍した一方、IOC委員を約30年務めた猪谷千春(1931-)氏が半生を振り返りつつ、IOCとオリンピックの舞台裏を分かりやすい文章でつづった1冊。 IOCの役割、その…

My Favorite Things:アルベールビル五輪の伊藤みどり【忘れじの冬季五輪】

1992年アルベールビルオリンピックフィギュアスケート女子フリースケーティング、伊藤みどりの演技。 youtu.be トリプルアクセルに関しては語り尽くされたので省略。個人的に忘れられないのは当時の採点システムでいわゆる技術点が出た後、解説者(たぶん五…

My Favorite Things:Leopold Stokowski-The Complete Decca Recordings【怪物が織る極彩色の音絵巻】

2017年が没後40年だった指揮者レオポルド・ストコフスキー(1882-1977)のデッカ録音BOX。 豪華絢爛たるバッハ編曲集やロシア物、意外にスマートなシューベルト「未完成」まで聴きどころテンコ盛り。1972年のロンドン交響楽団との60周年記念コンサートを「ア…

My Favorite Things【ヴィヴァルディ:調和の霊感第9番と映画「まあだだよ」】

20年以上前、イ・ムジチの来日公演で椅子から落ちるほどこれがトラウマになり、10年以上ヴィヴァルディをまともに聴けなかった。 youtu.be 2010年、黒澤明監督の映画「まあただよ」を新文芸坐で見た時、背後に流れるヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集作…

My Favorite Things【1988年F1世界選手権セレクション】

30年前の1988年、初めてF1世界選手権を1シーズン通してテレビ観戦した。そこからの数年間、頭の中の過半はF1のことが常にグルグルしていた。F1に夢中となる出発点だった1988年シーズンの記憶は未だに思い出すたびに胸がジーンとする。 ①第7戦フランスグラン…

日本人の指揮者・日本のオーケストラによるベートーヴェン【俵孝太郎のintoxicateコラムから】

かつて日本テレビ系のクイズ番組「マジカル頭脳パワー」の解答者としておなじみだった政治評論家の俵孝太郎氏はクラシック音楽好きの顔も持つ。ベートーヴェンの交響曲全集や日本人演奏家の音源の熱心な収集で知られ、タワーレコードの隔月刊フリーマガジン…

My Favorite Things【朝比奈隆1980年東京カテドラル】

①日本フィルハーモニー交響楽団〔第4番〕、東京交響楽団〔第7番〕、大阪フィルハーモニー交響楽団〔第8番〕、新日本フィルハーモニー交響楽団〔序曲ト短調〕(Tower Records Victor Heritage Collection)(Global Culture Agency X TOWER RECORDS〔SACDシン…

My Favorite Things【朝比奈隆のマーラー:交響曲第8番】

1972年6月5日と6日、フェスティバルホール(大阪)で行われた大阪フィル第100回定期演奏会のライヴ録音。 別名「千人の交響曲」。本演奏では実際に千人以上の出演者がステージに上がった。元毎日新聞記者の白石裕史氏が1997年発行の『大阪フィルハーモニー交…

My Favorite Things Special【Christmas Album5選】

カラヤンから3大テノールまで ①ユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管弦楽団/THE GLORIOUS SOUND of CHRISTMAS(ソニークラシカル) きよしこの夜~グローリアス・サウンド・オブ・クリスマスLP時代、アメリカにおけるベストセラーアルバム。バーン…

My Favorite Things Special【日本人指揮者の「第9」CD5選】

お茶の間で味わう師走の楽しみ 日本の楽壇の12月といえばベートーヴェン:交響曲第9番。というわけで今日は日本人指揮者の「第9」CDを5点セレクト。 ①山田一雄指揮、京都市交響楽団(タワーレコード×ビクター) ベートーヴェン:交響曲第9番/山田一雄(指揮)…